Short Story(not SFC)-短い話-

Reconfirmation day



「お前ももう18だもんな、この前の誕生日で。俺が歳食うはずだ」

「え」

「あ」

 

 

父ちゃんのため息混じりの何気ない言葉にあたしとガウリイは思わず声を漏らした。

 

魔王との戦いの後、あたしと旅の連れであるガウリイはあたしの郷里であるゼフィーリアに訪れた。

久しぶりの郷里に骨を休めたり、幼なじみと久しぶりに羽を伸ばしたり。

ガウリイに、郷里の案内をしてみたり。ブドウを堪能したり。

とても平和な日々をここ数日送らせてもらってるとある夕食時に、なんてことはない会話を家族でして父ちゃんが言ったのだ。

あ?と、あたし達の様子に父ちゃんはいぶかしげな表情をした。

 

 

食事が終わった後それぞれの部屋に戻る。

「……誕生日、きてたんだな」

部屋の扉を開けようとノブに手を伸ばしたとき後ろでガウリイが呟く。

振り向けばどこか困ったような表情で頬をかいている。

「ん、ゼフィーリアにつくちょっと前、ね。あたし自身すっかりわすれてたんだけど」

「もう歳食うの気にしてるのか?18で。だからわざと忘れたとか」

「違うわよ」

にらみつけると、まあまあと苦笑して彼はなだめる。

その表情だとガウリイも冗談のつもりで言ったらしい。

本当はわかってるはず。

今回は誕生日を思い出して、祝う余裕があたし自身になかったからだ、と。

 

「18、か」

確かめるようにもう一度ガウリイが呟いてあたしの頭を撫でる。

「そーよ。もう完全に、子供扱いされる歳じゃあないんですからね」

そう言ったからってこの男が子供扱いを止めるとも思えないけれど。

「知ってるぞ?」

けれどあたしの言葉に意外そうな表情で言うガウリイ。

うそつき。

「……それにしても今まで、お前さんの誕生日祝ったことないな」

撫でる手を止めて、少しさびしそうに言う彼にあたしは苦笑いする。

「だって教えてないし」

元々うちの家族も店やってて忙しいのがあって、子供の頃もあまりきちんと祝ってもらった事がないのであまり気にはしていない。

「教えてくれないのか?」

「あなたのだってあたし教えてもらってないわよ?」

 

 

春生まれ、というのは前何かで言ってたから知ってるけど。

それを聞いて1年前、17の誕生日のとき一人、自分が一つ歳をとったのを嬉しかったのを覚えてる。

秋生まれのあたし。

正確に彼がいくつかもよくわからないけれど、この期間、彼の誕生日が来るまではあたしは少しだけ彼の歳に近づける。

絶対追いつく事はできないけれど。

 

ちょっとだけ考えこんでからガウリイが言う。

「オレのは、あんまし自分でもよく覚えてないしなあ」

オイ。

いや、まあこんなんだから年齢訊いてもきちんとした答え未だに知らないんだけど。

でも口ぶりでは5歳〜8歳位の差。

これがちょっとだけ縮まるのは、彼がなんとも思ってなくても、やっぱり少し嬉しい。

大人に近づく実感。

 

そう思っていろいろ1年前から誕生日には確認させられる。

自分のこと。彼のこと。

――――今は亡き仲間達のこともこれからきっと加わっていく。

あたしが歳をいくらとっても彼らは変わらないままで。あたしの中で、やっぱり正確には知らなかったものの歳をとる事はないことを思い出す。

それで生きていることすら再確認して受けとめる。

今年は忘れてしまったけれど、次の誕生日には。

 

 

「…それじゃああたしのも言ったって忘れるでしょーが。どーせ」

内心思った事はさておき、呆れてあたしが返すとガウリイは頭に載せてた手をあたしの頬にやる。

優しいひとみで覗きこむ。目の前に、彼の顔。

彼のあたしに向ける表情が最近前よりどんどん柔らかくなっている気がするのはあたしの気のせいだろうか。

勝手な思いこみ?

「リナのは忘れない」

 

その表情でそう言うこと言うから。

郷里に来た意味がブドウとか以外にあるんじゃないか、とか色々思ってしまう。

未だ郷里に来て何も考えるような何かはないんだけど。これからもないかもしれないんだけど。

 

 

「とりあえず―――18歳おめでとう、リナ」

優しい声で―――実際に歳を取ったあたしよりも嬉しそうに改まって彼が言う。

誕生日は過ぎてしまったけど、それでもそう言われるとやっぱり嬉しいは嬉しい。

再確認日は今年は忘れてしまってたけど、その分今再確認。

生きてる、彼に近づいてる、歳を重ねる。

全身でそれを受けとめる。

 

 

「……ありがと」

その彼の表情に胸を少しだけはね上がらせつつ、そう短く呟いた後に自分の誕生日を彼に告げた。