Short Story(SFC)-短い話-

Raining



「リナ」

アメリアはリナの部屋の前で声を掛けた。

が、返事はなく気配も感じられなかった。

「開けるわよ」

鍵がかかっていないことに気づき扉を開く。

案の定誰もいなかった。

荷物は―――残っているものの。

 

 

「ガウリイさん」

今度は隣の部屋のガウリイに声を掛ける。

彼はすぐに部屋から出てきた。

「リナ―――来ていない?」

万が一。

ほとんどありえない事に気づきながらも問う。

「いや―――全く来てないが。いないのか?」

いつもの口調。

けれどもどこか苛立ちを彼から感じた。

アメリアは――知っている。その苛立ちの原因を。

そしてその事に―――リナも気づいているのではないかと言う事も。

「いつもの盗賊いじめの様ね」

わざと何でもない様に、肩をすくめて言う。

本当は―――そんな場合ではないのに。

 

「リナがどこにいるかを訊きに来たのか」

一階に下りると食堂にいたゼルガディスに会った。

顔色からだろうか、何も言っていないのに――そう言った。

「先ほど外の空気を吸いに行くと行っていた。すぐ戻るだろう」

「……そうですか」

そう言いアメリアも同じテーブルにつき、香茶を注文する。

沈黙。

口を開いたのはアメリアだった。

「…リナ、大丈夫かしら……」

「―――」

黙って香茶を飲んでいた彼がそれに反応する。

そして。

「……お前はどっちの心配をしているんだ?」

「……え」

「今外に出ていった『リナ』の心配をしているのか、獣王に捕まっている『リナ』の心配をしているのか」

 





「もちろんっ……!両方です!」

思わず。

怒鳴る様に答える。

当たり前だ。

魔族に捕らえられている本物の『リナ』は心配せざるを得ない。

けれども自分は『道具』だと、本物のリナではないのだと―――言われた自分の傍にいる、『リナ』も心配だ。

なのにどうして目の前にいる人は。

どちらなのか、と訊くのか―――

「ガウリイの旦那もそう答えるんだろうな」

彼はそう言い。無表情のまま言葉を続ける。

「しかし実際にはそうはいかないんだろう。ガウリイの態度は明白だ。

今のリナが『リナ』でない―――それだけならともかく、本物のリナが囚われている、そう知ってから―――

今のリナをリナ、と名前で呼ばない。態度があきらかに違う」

―――知っている。

だから先程も―――思ったのだ。

自分たちの傍にいるリナは―――ガウリイの隣にはいないと。

気づいているのだろう。

ガウリイの、自分に対する今までの態度の違いに―――

 

「わたしは違うわ。今の『リナ』も、囚われている『リナ』も大切な仲間です」

ガウリイの態度は仕方ない。

ガウリイにとって『リナ』は―――大切な仲間なんてくくり方では表現できない存在だろうから。

保護者としての立場もある。

捕らえられている本物のリナのことしか考えられなくなっても―――仕方の無い事―――

けれども自分は。

「そう言うゼルガディスさんはどうなんです?」

彼の答えが気になった。

そう言うからには彼の答えはどうなのか―――――

彼は香茶を飲み干し席を立つ。

「ゼルガディスさん!?」

「……雨が降ってきたな」

「ごまかさないでくださいっ」

ゼルガディスは―――アメリアを見据えた。

「……ここで何と言ったって囚われているリナを助けないと話にならんだろう。

だから俺はあえて何も言わん」

「そんなのっ……卑怯じゃないですか?」

「今ここで口約して破る方が卑怯だろう」

何か反論しよう。

そう思いアメリアが口を開こうとすると勢い良く宿の中に入ってくる人物がいた。

――――リナ。

「リナ!」

「あ〜びしょびしょ。結構降りだしたわよ」

いつもの彼女だ。

「外の空気吸うどころか、水まで持って来ちゃった」

いつもの『リナ』の様に笑う。

けれども、彼女は―――

「……どうしたの、アメリア?…ゼル、何か話してたの?」

「…いや。明日の作戦会議だ」

嘘をつく。するとリナは苦笑する。

「……ああ。サイラーグについたら本物のリナを助けないとね――」

そう言う彼女の心境は。

さぞや複雑なものなのだろう。

知っている。

わかっている。

けれども彼女は―――自分達と、『リナ』を助けに行くのだ。

彼女も『リナ』同様、正義の心を持っているから、とアメリアは思った。

どちらも大切な『リナ』だ。

 

 

 

けれども。

 

 

 

 

 

 

 

獣神官ゼロスを倒し、リナコピーを倒し…。

やっとの想いで獣王を倒し。

クリスタルの中から本物のリナが姿を現した時。

 

 

 

 

「リナ!」

 

 

迷わずアメリアはガウリイ同様―――リナの所にかけつけた。

今まで一緒にいた―――リナの元を離れて――――

 

 

 

 

 

「……っ」

ふとアメリアはその事に気づく。

振り向くと。

そこには立ち尽くしたままの―――一緒にいた、リナ。

彼女の隣には―――ゼルガディス。

 

 

 

 

『今ここで口約して破る方が卑怯だろう』

 

 

 

 

 

 

そうかもしれない。

そして。

その卑怯を―――してしまったのかもしれない。

正義では、ない事を。

 

 

 

 

 

何故。

 

 

 

 

 

 

「これからはレナって呼んで」

「わたしは今まで通り気ままに旅を続けるわ」

 

 

 

 

そう言う彼女がひどく痛ましかった。

あの時の雨に濡れながらいつも通り語る彼女が。

ずっと、自分の前にいた。