20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

08.男の部屋



戸を叩けばすぐに彼は顔を出した。

 

「………どうした」

突然部屋に訪れたあたしに対して、最初に感じたのは面倒だと言う感情らしい。

すぐにそう言う顔が表に出ていた。けれどあたしはそれを無視する。

「ちょっと、あんたのところにかくまってくんない?」

眉間にしわを寄せる彼。

邪魔するわ、と彼の意志もそっちのけであたしは部屋の中にずかずかと入っていった。

 

「そんな嫌な顔してないでよ。酒くらいは持ってきたわよ?」

「…匿るとはどう言うことだ。何があった」

酒瓶を見せて、椅子に座るあたしに、誤魔化されず彼――ゼルガディスは言う。

「…部屋にいると五月蝿いのよ」

あたしが眉しかめてそう言うとよくわからないと言った表情をする彼。そこに。

どんどん、と部屋の扉を叩く音。

あ。

「……今度はなんだ」

ゼルが扉を開く前にあたしは服のはしをひっぱって止める。

「あたしがいることはとりあえず内緒にしといて」

めちゃくちゃ小声でそう言いあたしは扉から見て死角に逃げ込む。

ゼルはそれを待って扉を開いた。

 

「ゼルガディス」

……訪れてきたのは予想通りの男だった。

「リナ、来なかったか?」

「……いや。何かあったのか?」

「部屋にいないみたいでな。どこに行ったかと思って」

珍しく早口でまくしたてる声が聞こえる。

「何かリナに用があるのか?その慌て振りは」

「いや、ないが……またさらわれたのかもしれないだろ?」

 

思わずあたしはため息をつく。ゼルもため息をついたよう。

「少しは落ち着け。ガウリイ。アメリアの所かもしれないだろう」

「先に行ったが、来てないって」

「女同士積もる話があって、わざとそう言ってるのかもしれん。少なくともずっと俺はたまたま窓の外を見ていた。

リナが窓から外に出た形跡はない」

「そうか。じゃあもう一回アメリアに訊いてから宿内を探してみる」

探さなくていいっての。

思わずツッコミたくなるけれどかろうじて心の中にとどめた。

そして扉の閉まる音。

あたしはふう、と思わず一息つく。

「……こういうことか」

呆れた様にゼルがあたしを見て言う。

こくり、とあたしはうなづいた。

 

あたし、リナ=インバースは実はつい数時間前まで魔族にさらわれていたのだ。

ガウリイ・ゼル・アメリア、そして―――あたしのコピーというレナ、とでそれを助けてくれた。

それはまあいいんだけど。

盗賊いぢめに出かけた際にさらわれた、と言うことがあってかやたら自称保護者のガウリイは部屋にちゃんといるか確かめに訪れるのである。

これがこの一日だけでも何回も続くとまぁ、うっとしいのなんの。

いくらなんでも解放されたその日に盗賊いぢめに行くつもりはないとゆーのにどーにも気になるらしい。

過保護と言うかなんと言うか。

 

「よっぽどだな。あの旦那なら野生の勘で気配感じ取って気付きそうなもんだが全くそれすらなかった」

「ンな位慌てられても困るのよね。おちおちトイレにもいけやしない」

「で、部屋から逃げてきたわけか。アメリアの方に行けばよかったんじゃないか?」

「そりゃそうなんだけど」

言ってあたしはもう一度椅子に座り直す。

「あんたのが余計な感情入らないで話してくれそうじゃない?あたしが知らない、あたしがいない間のこと」

 

すると仏頂面のまま彼は言う。

「と言っても俺が知ってる部分は少ないぞ。本当にここ半月くらいしか俺はやつらと旅をしてない」

「―――あんたは、『彼女』があたしじゃないって知ってたの?」

カップに持ってきた酒を注ぎつつあたしは言う。

「ああ。それは。そう判ってから合流したからな」

「――――その前に合流してたら、あんたも『彼女』をあたしだと思った?」

その言葉に意外そうな顔をするゼル。

あたしが差し出すカップに手を伸ばしながら。

あたしの方はもう一つ酒を注いだカップに口につける。

独り言の様に呟いてみる。

「誰も気付かないもんなのかな、って思って。いくらあたしのコピーだからって。ガウリイも、アメリアも」

 

リナだと思って一緒に行動してた―――

そう言ったのは誰でもなくガウリイだ。

彼女のことを説明するときに発した言葉。

 

その時のあたしの感情をきっと彼はくみとってはいない。

 

「気付いていただろう」

彼もカップに口付けた後に言う。

「ただ、記憶がない、という状態ならもしかしたら、と思ったんだろう。

その可能性に賭けていた。もっともそれは―――レナも同じだろうがな」

――あ――

「あんたとは違う部分が多い。あんたほど前を迷わず向いてるわけでもないし、全く違う人間だと普通は思う」

「……そ」

彼女のことを思いだし、なんとなくそっけなくあたしは答える。

「安心しろ。少なくともお前がいなかったからと言ってレナに手を出すほど馬鹿じゃないだろう。旦那も」

ぶは。

思わず呑んでた酒を吹きそうになる。

「……って、あたし別にっ……そーゆー意味でっ」

顔が赤いのが自分でわかる。

その瞬間ふと疑問がよぎって、言葉をそこで止めておそるおそる手を上げて質問する。

「…あの……あんた…なんかガウリイから聞いてたりする……?もしかして」

「聞いてたりする、なんてもんじゃない」

うんざりとした口調。

「リナがさらわれた時の状況はもちろんのこと、その前までのことも事細かにあの旦那にしてはべらべら話す。

相当ショックだったんだろうな。多分自分がどこまでしゃべってるのか今となってはわからないんじゃないか」

うあああああああああ。

 

「聞いてた限り式は挙げてないようだが……」

言われて思わずふいっと顔を横にそらす。

「……別に形にこだわりたくないし。今のままでいたいだけよ」

そう。多分ゼル達とあたしが旅してたときとなんら変わってないと思う。

ただ2人であたしの郷里に帰ったりとか色々まぁ、やりとりはそれなりにあったけど。

 

「ともかく。少しは盗賊どもいびるのも控えてやったらどうだ。結果がこの事態を起こしたんだ。少しはガウリイ側のことも考えてやれ」

「冗談。あのときはあのとき。絶対また行くわよ」

そう言ってあたしはカップの残りの酒を呑みきる。

それにもゼルはしかめ顔で注意。

「あと、愚痴をこぼしにくるのはいいが土産に持ってくるなら酒はやめておけ。それ以上も呑むな。

下手な誤解を受けると旦那に何されるかわからんからな」

旦那、に別の意味が含まれているような言い方にまた顔が赤くなりかけた。

それを誤魔化すためにもあたしは強気で言い返す。

「誤解されると思うの?あたしとゼルで」

「………あんたな。俺が男なのを忘れてないか。ここが俺の部屋だって事も」

「忘れてないわよ。でもあんたがあたしに手出すわけないじゃない」

「そんな度胸はない、って意味か?それとも子供体型には興味ないと言う意味…いやなんでもない」

あたしが睨みつけると後半は言うのを止めた。

あたしはため息をついて言う。

「……その身体を元に戻す目的が叶うまで、女にちょっかいだしてる余裕はないでしょ、って言ってんの」

 

ゼルがそんな器用でない事は知っている。

身体を戻すことに躍起になっている以上他のことを考えられはしないだろう。

元々人との関わりが得意でないほうだし。好きかどうかはさておいて。

 

「その根拠はなんだ?」

不本意な表情をしているあたり図星のよう。

しかし自分では気付いていないらしい。

こーゆー所が彼はお茶目だと思う。

 

「こんな美少女に出会って旅しててもそんなそぶり見せなかったでしょーが」

「……あのな」

呆れた顔で言って彼も自分のカップに入った酒を飲み干す。

「あんたが身体を元に戻した後だったら、あたしに惚れてたでしょーけどね」

笑って言う。すると彼もその言葉に苦笑した。

「これから戻っても遅い、ってことか」

「そーゆーこと。まー戻ったら、同じくらいの美少女捕まえたら?」

 

なんとなく、『彼女』ならばその時にゼルが元に戻るときに傍にいられる気がする。

ゼルの『彼女』へのもの言いが柔らかかった気がする。

まあ、あくまでもあたしの考えだけれど。

ガウリイが『彼女』には手を出していないと言ったのも、もしかしたら彼は自分自身に言い聞かせてたのかもしれない。

 

どんどんどん、とまた扉を叩く音。

話している声に気付かれたのかもしれない。

「―――また隠れるか?」

扉のほうを見てゼルは言う。

あたしは肩をすくめた。

多分今度は無理だろう。

「いいわ。あんまし心配させて大事にされても困るし」

それなりに愚痴と言うかいろいろ話したし。

 

わざわざゼルを選んだのは楽になれる、というのもあった。

性別気にしないある意味貴重な存在。

そしてその部屋は楽な空間。

 

「それじゃ開けるからな」

言われてあたしは、駆け込んで来るであろう自称保護者を相手するため気合を入れた。