Short Story(not SFC)-短い話-

モノトナス・ウィッシュ



穏やかな天気の昼下がり。

いつもどーり街道を歩いていたあたしは、隣を黙って歩いているガウリイにタイミングを見計らって声をかけた。

「ねえ」

その声にこちらを見て反応するガウリイ。

眉をひそめて問いただす。

「あたし、最近何かあんたにした?」

 

……話は少し前にさかのぼる。

ある日、何かたわいもない話をしていて、ガウリイがあたしの頭を撫でてきた。

と、まあここまでならよくありがちなことなので問題はないのだけど―――――

その日は違った。

ふ、と何かに驚いたように彼の手があたしの頭から離れた。

何?とその時も訊いたけれどいや別に、と彼は答えた。

 

けれどそれから彼の様子がおかしい。

どこが、と言うのをきちんと挙げろと言われると困るのだけれどあえて言うなら、それ以降あたしの頭に触れてこないことだろうか。

いや。別に触って欲しいわけでも撫ぜまわされるのが好きなわけでもないんだけど。そうじゃなくて。あれだけもはや既に癖と言っても過言でないほどだったのに。

不機嫌―――とまでは言わないまでも、珍しく小難しい顔になることが多いし。

 

「別に。なんでそんなこと訊いてくるんだ?」

きょとんとした表情のガウリイ。あたしはため息をついて言葉を続ける。

「顔。なんか考えてるみたいでずっと黙ってるからここんとこ。何かに腹たててんのかなと」

髪に触れてこないから、とは言わない。てか言えるわけない。

「それともなんかに珍しく悩んでるとか?」

「え?」

何故か驚いて困った顔をする。そして。

「いや。多分ちがうと思うけど」

ぱたぱたと手を振る。

なんだそのミョーに慌てた否定の割に曖昧な返事と表情は。

「って言うか、オレ、難しい顔してたのか?」

…どーやら自覚はないらしい。

黙ってうなづくと、そっかあ、と一人でこくこく納得するガウリイ。

「…いや。この前ふっと思ったんだけどな」

あたしを見て口を開く彼。特に頭。

「お前さん最近背、伸びただろ?」

 

……へ?

 

思わず歩いていた足を止める。

自分で手足を眺めて、上を見て頭に手をやってみるけれどわかるはずもなかった。

特に見る高さが変わった、と言う感覚も別にここ数年見うけられない。残念ながら。

なのに。

「……ほんとに?」

半信半疑で問いただす。

そりゃあたしだって成長期なんだから、彼と出会った頃に比べたら伸びてておかしくないんだけど。

多分伸びた、と言ったってそんな大幅にではないんだろーけど。

けれどなんでそんなちみっとの差に気付いたのか。

 

ああ、とガウリイが左手をあたしの頭に載せる。

あ。

「前と、こーしてる時の高さの感覚がちょっと違う」

なるほど。

それに気付いて彼はあの時驚いたわけか。

でも。

「それで?あたしの背が伸びたからってなんで悩んでたのよ」

「悩んでないって」

苦笑してそのまま頭を撫でてくる。

少しだけ久しぶりの感覚。

「ただ、ちゃんと成長してるんだなあって思って」

どーゆー意味だ。

とツッコミをいれる前にふとあたしは気付いた。

それに気付いてから彼が触れようとしなかった。その理由。

「……困る?」

 

さっきよりもガウリイが驚いた顔をした。

「あんた、自称保護者だもんね。親って子供が成長してるの、嬉しいけど戸惑ったり困ったりするもんなんじゃないの?」

そんなガウリイを無視してそう、あたしはわざと軽い調子で言ってみた。

 

彼がそれに気付いてからけして快い表情をしなかった理由。

意識的なのか無意識的なのかはさておき触れてこなかった理由。

それは、多分子供だと思ってるあたしの成長に戸惑ったから。

保護者、としては子供の変化は必ずしも喜べるものじゃなくて。

本当の親でもない彼にとっては保護者でいるにはむしろ―――

 

「……ああ。そうかもしれない」

あたしの心境も知らずすんなりとそれにうなづくガウリイ。

ああもぉこの男は。

あたしに成長するなとゆーのか。このまま変わらず旅を続ける為には。

―――何かを保つ為には。

 

くしゃり、と頭を撫でる力が不意に強まる。

「でも、リナの言う通り、確かになんとなく嬉しいのもあるけどな」

穏やかに笑んであたしに言う。

 

成長するなとゆーのか。

――――何かを別のものに変えない限りは。

 

あっそ、とわざと彼から顔を背ける。

歩き出しても彼の手はあたしの頭から離れなかった。

 

前はとにかく成長したくてたまらなかった。

何かを早く変えたくて仕方なかった。

けど最近は時々。時々だけどこのままでいたい思う気持ちも少し混じる。誰のせいかはさておいて。

結果、考えずゆっくりと自分でも無意識に不意に何かが変わってく。

何かを確実に変えていく。

自分でも言われるまで気付かなくて驚くけど。

そこには結果とどまってない。

 

 

……けれどこの日から、また彼があたしの頭にいやと言うほど触れるのを再開したことに内心安心してしまったあたり、やっぱし誰かのせいだと思う。