20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

06.湖

 

 

「…おい」

ゼルが後ろを歩きながら声をあげる。あたしは無視する。

めったにない図だったりする。ゼルが前。あたしが少し後ろのがいつもほとんど。

「本気で探す気か」

再度のゼルの言葉にも無視。

「探しても無駄だ。何度言ったらわかる」

その言葉にさすがにあたしはむっとして振り返る。

呆れ顔で地図を広げている彼にいらつく。

「『無駄』なんて言葉ゼルから聞きたくない」

あるもん、とあたしは言い切って前を向き直す。

ため息にも似たゼルの呼吸音が後ろから耳に届いた。

 

―――――この山の奥にある湖の傍に合成獣の新しい発見をし研究をしている魔道士の研究所がある―――――

ゼルを元に戻す為の旅をしているあたしが必死に見つけてきた情報なのだ。目立つことが嫌いなゼル自身の分どれだけ立ち回り頑張ったか。

あたしだってリナ=インバースのコピー・ホムンクルスである以上あんまし目立つとオリジナルのリナと誤解されるし面倒だしで困る立場だというのに。

 

けれど、なのに今回ゼルはその情報を持ってきたあたしに対して迷わず言ったのだ。『ガセネタを掴まされたな』と。

あたしが腹を立てるのは当然だと思う。

 

「何度も言うがまず湖そのものが存在しない。これは事実だ」

言って地図をぱしぱし叩く音。

「この地図は五年前に作られた。現地調査されたわりと精密なものだ。そもそもお前が言う湖は話だと相当大きなものだというじゃないか。そんなものが今まで見過ごされてたとでも言うのか」

「……この五年でできたのかもしれないじゃない」

「阿呆か」

その断言がムカつく。

山道を歩く足の速さを思わず速めるあたし。

ゼルはあたしが持ってきた話に毎回冷静だ。冷静すぎる時も多いくらいに。知識も多いから分析力もすごい。知ってる。

知ってるけれど、でも。

豊富な知識は時に思考の邪魔をする。

 

「その決めつけが、あなたの可能性を潰して方法を見つけられないのかもしれないじゃない」

きつめの口調で言ってしまう。彼は言葉に詰まったように黙り込む。

 

本当はこういうこと言いたくない。言いたくないけど彼が言ってほしくないことを言うんだから仕方ない。

知識、理論を優先しているだけじゃダメなことだってある。

どんなに少ない可能性でも信じる。それが大事だと教えてくれたのはほかでもない彼なはずなのに。

 

「湖がなかったら納得するのか」

「湖があったら納得してくれるの」

堂々巡りの言葉の応酬。

「湖がなかったらしばらくお前は俺の言うことを聞け」

「じゃあ、あったらしばらくあたしの言うことを聞いて」

結局交渉で堂々巡りを止める。

 

絶対ある。予感がする。信じる。

ゼルに否定されたからだけじゃない。そう思えるんだから仕方ない。たまにはこう言うのを頼ったって罰当たらない。

 

―――しばらくして山道の木々がなくなり視界が開けた。

目の前に広がるのは―――ぽっかりと開いた空間。海にも似た青。

―――――見間違うことなくそれは、湖だった。

 

「…バカな」

後ろのゼルが驚いた声。あたしは自慢げに振り向いた。

「ほぉら!湖あったじゃない!」

「ちょ、ちょっと待て」

言って呪文を唱えるゼル。空を飛ぶ。結構高く。追いかけて飛ぼうかどうしようか迷っているとしばらくしてゼルが降りてきた。

 

「…これは湖じゃない」

第一声がそれであたしは眉をひそめる。

この期に及んで何を言うのか。

「ゼル、往生際悪い」

「上から見た。真円(・・)だ。 周りに川らしきものもない。意味がわかるか」

「……」

 

真円、ということは自然のものではないということ。

水が流れ込むための川らしきものがないのもそれを裏付けてる。

 

「…人工湖?」

「ものは言いようだな」

ベストな回答をするあたしにゼルが言う。

「おそらく、どこかの暴れ魔道士が放った、でかい魔法でえぐられた窪地に雨やらで水がたまった…いわゆる『水たまり』だ、これは」

あたしの前に立ちあたしの頭に彼は手を置いた。

「湖じゃない。俺の勝ちのようだな」

「人工湖は湖じゃないなんて言ってないじゃない」

「…お前な」

「『湖』の定義が学者の間で割れてるのくらいは知ってるわよ、あたし」

 

深さ。人工か自然か。海と繋がってるか。様々な見解で池だの沼だのと区別しようとしてるけど結論は出てない。

 

「これは立派な湖」

「……」

 

結局埒があかない。

 

「…今回お前やたらひっかかるな」

両手を挙げるゼル。

「…わかった、もう俺の負けにしといてやる。お前の言うことを聞いてやろう」

その声には諦めの色。あたしは頬を膨らませて言う。

「……なんかそれはそれで腹が立つんだけど」

「どうしろって言うんだ」

 

今度はあたしがため息をつく。

ゼルにびしっと人差し指をつきつける。

 

「『無駄』なんて言って思った自分を反省して。『湖があった』ってことは研究所もある可能性高いんだから。諦めないで探すの」

 

最近手に入る噂や情報があたし達にとって全くかすりもしないものばかりで疲労してたのは確かだけど。

 

あたしに言われて何故か面食らったような顔をするゼル。

そして顔に手をやり苦笑しだした。

 

「…謝れと要求してくるかと思ったらそこで、反省しろ、か。…お前」

完全に負けた、と再度両手を軽く挙げる彼。

「…反省する。で、これからどうしたい。言ってみろ」

わかってる癖に、予想できてる口調でそれでも彼は訊く。

 

あたしはいつもの位置――――ゼルの斜め後ろの位置に立つ。

「当然、手がかりの研究所を探すの」

 

ゼルが了承したように力強く一歩足を先に踏み出してあたしは笑みを浮かべた。