Short Story(not SFC)-短い話-

水面に浸した夢



あたし達は戦っていた。

 

 

……いや、何故、とか誰と、とか訊かれても困るんだけど。

とにかく気がついたら戦っている場面だったのだ。

姿はチンピラ。はっきし言ってザコ中のザコ。

盗賊いぢめ、と言うわけではない。ここはどこだか知らないけれど街中。

多分ほんとにその辺のチンピラに絡まれただけ――――なのだと思う。自分のことなのに自信がないけれども。

 

 

 

チンピラの中に腕の立つやつがいた。

この辺りで妙なもやがかかる。戦いを止めてそいつが何か話しているのにそれをあたしは認識できない。

余裕の表情の男。

 

「そっちの女はどうかねえ?」

――――え―――?

 

ふ、と自分の横を見た。

青白い――顔色のアメリアの姿―――

 

「アメリアっ!?」

「だい…じょうぶです…っ」

「どうした!?」

ガウリイとゼルがあたしと同時にアメリアに駆け寄った。

 

――――毒―――。

 

急いでっ治療を……っ!

とあたしが声を出す前に世界にもやがまたかかる。

目の前に起こっていること。なのにその目の前は、見えない。

あれに似ている―――水鏡。

目の前にみえる。とてもよく。なのに細かく見ようと覗き込んだり触れようとすると、歪んで見えない。

 

 

 

――もやが、晴れた。

時が過ぎてる。わかる。

そして。神殿の一室で横たわるアメリアとその部屋の前で立ち尽くすあたしとガウリイ―――。

―――ゼルだけが部屋に入っていて。

部屋の扉を開ければ、ゼルの姿はなく眠っているようにみえるアメリア。

そう。眠っているように……。

 

 

がむしゃらに、毒を与えたごろつきを探すあたし達。

その先に待っていたのは―――憎悪に心を染めた――白い法衣。

あたしは彼に叫ぶ。やっとの思いで声を絞り出して。

 

「ゼルウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「リナさんっ?」

目を開けるとアメリアの姿。

きょとん、とした顔で隣のベットからあたしを見つめる。よくよく周りをみると宿の一室で。時は真夜中。

自分の状況を理解する。

――――夢。

ふ、と部屋の中は夜独特のひんやりとした空気が広がってるのに気づく。

水の冷たさに似て。

 

 

「どーしたんですか?うなされてましたよ?」

「あー……ちょっとね……」

起き上がってぱたぱたと手を振るあたし。けれどそれに面白くなさそうな顔をするアメリア。

あたしの傍に、来る。

「…ゼルガディスさんの名前読んでましたけどどんな夢見たんですか?」

「え?あー……その」

ぎくりとしつつも言葉を捜そうとするあたしに、

「隠すのは正義じゃありませんよっ、さあ白状してください?」

妙に強気に言う。

乾いた笑いを浮かべても一歩も引かなくてあたしは観念した。

「あー、もう、わかったわよっ」

 

あんたがどこぞの誰かに毒を盛られて倒れる夢を見たのよ、と言うとアメリアは目を丸くした。

 

「ひどいリナさんっ!そんなことたくらんでたんですかっ!?」

「だーかーら。夢だったって言ってるでしょうが」

「普通心のどこかに思ってなかったらそんな夢見ませんよっ。…それに」

「それに?」

少し呆れたような顔をするアメリア。

「あたしが巫女だってこと忘れてません?『復活』も使えますしそんな毒にやられたところで自分でなんとかできますよ?」

「……あ」

 

あたしは思わず声を漏らす。確かにそのとおり。

けど、夢の中であたしはその事には気づかなかった。いや――――思わなかった。

何故か。

 

ただ何もできず、アメリアは崩れ落ちて。

その事にゼルが心を闇に落として――――

 

あまり最後のほうは細かいことは覚えていない。まあ前半も細かいとは言えないけれど。

けれど印象だけははっきり残ってる。

その後ゼルがあたし達の前に敵として現れて―――あたしは彼を止めるためにも手にかけるのだ。

考えもつかない、冷静に考えたら阿呆かとツッコミいれたくなるほどの内容。

それでも夢の中で、あたしは本気で何かを叫んでた。

 

ゼルが憎悪で暴走するのを止めようとして声出した、と最後のほうは簡略的に言う。

アメリアは暗い中でも若干わかる程度に顔を赤らめた。

「……そんな。ゼルガディスさんがあたしの為にそんな。

リナさんったら、ゼルガディスさんがそんな風になるはずないじゃないですかっ」

「あー、そぉね。あたしもそう思うわ」

「………」

何か言いたげな目であたしを見るけれどそれは無視。

 

そう。そんなはずない。

もし例えばゼルがアメリアに対して特別な感情を持っていたとしてもその想いから暴走する、と言うタイプでは絶対ない。

理解しているはずなのに。

 

 

「……ま、それはさておき、『絶対にない』とは言いきれないのかもね」

「え?」

戸惑った声を出すアメリアに苦く笑う。

「あたし達はゼロスと違って対立してるわけじゃないし、する理由もないけどさ。

何かを止めるためにあたし達が向き合う、って事はないとは限らないのよね、って事」

 

 

フィブリゾ相手に重破斬の完全版を唱えたとき――――

ゼルやアメリアが動けて口を出せる状態ならもしかしたら止められていたかもしれない。

ガウリイを見捨ててでも――そうする可能性があるからと、アメリアはフィブリゾの計画を聞かなかったのだから。

けれどあたしは二人が止める言葉を紡いでも、きっと唱えていた。

その瞬間きっとアメリア達は、どんなにあたしが傷ついても止めようと、前に立ちはだかる。

立ちはだかってくれると、思う。それはあたしでなくても、逆だとしても。

 

100%ありえない夢じゃあない。

向き合う理由なんていろんな事情が絡めば生まれる。

もちろん望まないけれども、その『可能性』が夢としてたまたま現れたのだと思う。

 

「大丈夫ですっ!あたし達正義の仲良し4人組を引き裂ける力を持つものなんてそうそういません!」

妙な自信を持って決めポーズ取るアメリアにあたしははいはい、と適当っぽく返事。

けれどきっとその妙な自信こそ『可能性』を打ち消す『力』。

 

 

――――もし、そうなったら、なんて。

なってみないとわからない。

そうなるようにするつもりもない。

大丈夫。

 

 

「さあさ、明日は早く出発ですし、もう寝ましょう」

アメリアが妙に張り切って自分のベッドに潜り込み直す。

「そーね。…あー、真夜中に起こして悪かったわ」

少しだけ笑って、あたしも潜りなおして目を閉じる。

すぐに睡魔に再び襲われた。