20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

07.真夜中



彼のことを何かものに例えるとすれば、と言われたらあたしはよく軽口で色んなものに例える。

ミジンコ、とか。スケルトン並の、とか。くらげとか。まあ全部頭の中身に関しての比喩だけれど。

けれど本当は一番ふさわしいものをあたしは知っている。

けして誰にも言わないしこれからもきっと口にはしないけれど。

笑顔だけでなく、全体的に柔らかく穏やかな印象の彼にとても似合うもの。

おひさま。

 

 

 

―――ふと暗闇の中、あたしは目を覚ました。

まだ朝ではなかった。眠りが浅かったらしい。

――ここ数日ずっとそうだ。

身体をベッドに沈ませたまま、手だけを宙に上げて自分の顔に触れる。

目のまわりは濡れていた。

また、泣いた。

上半身だけ起こして、それをぬぐう。

 

「……なんで…」

一人ぽつりとつぶやく。

―――夢の中身はいつも覚えてない。

ただ目が覚めると涙をこぼしている。

あたしらしくもない。落ちこんでる自覚もない。それなのに。

 

彼がそばから消えた。

一人に戻ったわけじゃない。ゼルもアメリアもいる。仲間がいる。ただ彼一人がいないだけ。

その彼を助けるためにサイラーグに向かっているのだ。

正直助けられる自信なんてないけれど、だからと言って行かずにはいられない。

その事実はとっくに受け止めているはずだし、するべきことも理解している。

なのにそれとは別にただ涙だけがこぼれる。

なんとも言えない感覚に陥る。

 

その感覚の本当の理由は今のあたしにとっては認めてはいけないから、わかってはいてもわざと背ける。

 

再び身体をベッドに横たえて目を閉じる。

認めないとするのに浮かぶのは彼の柔らかい笑顔。

また勝手に涙がこぼれそうになる。

 

彼をおひさまだ、と初めて思った時の事を今ふと思い出した。

理由とかそんなものが関係なかったころ。

認めるも認めないもなく何も考えずにいられたころだった。

 


 

「そろそろ機嫌直せよ、リナ」

苦笑いして彼が言う。

「誰がっ」

街道を歩きながらあたしは怒鳴る。

あたしが腹を立てていたのはその少し前のこと。

泊まろうとした村の、宿屋のおっちゃんの対応に、である。あたしに対しての。

どーやらあたしの年齢を3つ4つ間違ってみてたらしい。もちろん下のほうに。

魔道士スタイルなのも単なる真似事かと思ったらしい、子供の。

なもんでガウリイではなくあたしが部屋2つ空いてるか、とか仕切って訊いてもちゃんとききやしなかった。

ガウリイが話すときちんとした対応をして。

今まで旅をしてきて宿で子供扱いされた、ということが皆無とまでは言わないけれどまがりなりにも客相手にあそこまでひどい対応は初めてだった。

当然ながらあたしはそこの宿に泊まるのをやめて次の村まで行く事にした。そうして街道を歩いてる。

 

「小さな村だったから魔道士そのものが珍しかったんじゃないか?」

なだめるように彼は言う。

あたしはむっとしたままガウリイをにらみつけた。

「だからってね、こっちは金を払う客なのよ?あんな扱い商売人としてなってないわよっ」

「その金を持ってないと思われたんじゃないか?こども過ぎて」

「単にちょっと小柄なだけじゃないのよっ」

そう言うと、まあまあと彼があたしの頭を撫でる。

その行為も子供だと言われているみたいで嫌だ、と抗おうとした。けれど。

「老けてるとか言われるのよりはいいじゃないか?その年で」

 

フォローになってないフォローだけれど、やさしく笑顔で言われてその気持ちはなえてしまった。





あたしは最初彼のなにも考えてないところを馬鹿馬鹿しく感じて、どーでもよくなった、と投げてしまうからだと思っていた。

でもゆるゆると自分の中にたまった怒りが溶けていくのはまるで心地よい陽だまりの中にいる感覚と似ていて。

その事に気付いてああ、と思った。

おひさまに似ている。

やさしすぎて、あたたかくて。そばにいてここちよい。

彼の持ってる雰囲気とか人相とかのせいなんだろうか。







時々その日の照り方に頭もくるけれど、基本的には穏やかに、いつだってあたしのそばにいる。

見守られている。

最終的にはあたしをいつも楽な感覚に引き戻す。

自称保護者のあたしの中での役割。

 

 

けれど今のあたしは、そのおひさまを奪われて突然の闇の中。

 

 

「…植物か。あたしは」

自嘲じみたひとりごと。

 

おひさまがなくて今までのように身体を伸ばすようにいられない。成長できない。

別に生きていけないわけではないのに―――。

 

それでもおひさまを自分の為にもとめてる。

その感情は、保護者だからで。でもそうでなくて。

 

 

もう一度、顔を今度は起きあがらないままぬぐった。

夜はもう明けようとしていて窓から淡い光が漏れていた。

 

けれどそれでもあたしはずっと真夜中にいたまま。

きっと抜け出す方法なんて一つしかない真夜中。

 

くらくてくらくて。

 

 

きちんとした朝が見られるように祈って、あたしは少しの時間だけだとしても眠りにつくことにした。

―――――目覚めれば、生きるだけの力を与えられているあたしは、真夜中でも必然的に走り出さなければならないから。