20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

10.煙


「煙みたいに、消えちゃえばいいのに」

 

少し呆けて思わずつぶやいたひとりごとに、傍にいたガウリイが反応する。

彼が反応することであたしは自分が声に出していたことに気づく。

苦く笑んだ。目の前に横たわる残骸をちらりと見て。

先ほどまで生きていた――――――――――――あたしと同じ姿の末路を。

 

 

コピー・ホムンクルス。

それは魔道で、何人でも同じ姿の人間を生み出すことができる技術。

オリジナルのヒトの髪の毛一本でそれはいくらでも可能になる。

……あたし、リナ=インバースの髪で大量にそれは生み出されてしまった。魔族のたくらみにより。

魔族の言うことをきく、魔族の願いを叶えるだけの能力が備わったあたしのコピーを作るための実験として。

そしてそれは―――――――――世の中に放り出された。

 

その話を聞いた最初は、まさかそんなと思ったのだ。

あたしは少し前魔族に捕らえられた。そして無傷で助け出された。

助けてくれたのはガウリイやアメリアといったよく知っている仲間だけではなく―――――――――あたしと同じ姿の人間がいた。

彼女は魔族によって生み出されたものの、記憶をなくし、魔族に反旗を翻しあたしを助ける道を選んでくれた。

その時に聞いてはいたのだ。彼女だけではない。大量のあたしのコピーが世の中に放たれているのだと。

しかもそれは―――――――――魔族と同じ考え方をしているのだと。殺戮を望み、自分と同じ姿を偽者として倒しあっているのだと。

けれど目の前の彼女の存在にただ驚いて、それを半ば聞き流していた。

実際にその場面を自分の目で見ないと信じられない――――――――――――信じたくないのもあったんだと思う。

 

―――――――――けれどあたしは―――――実際にその場面に出会ってしまった。

 

 

「お仲間発見」

街道で出くわしたあたしと同じ姿は苦々しい表情でそう言った。

「男連れ?二対一は卑怯なんじゃないの?…ああ、でも男から殺せばあっさり倒せるのかしら。偽者さん」

「――――――」

 

その言葉に――――――――――――色々なものがどうでもよいと思った。

姿も。こっちに喧嘩を売ってくる理由も。

相手が人間かどうかも。

ただ同じ姿なだけ。どんなに似ててもあたしじゃない。だから、たかが似てる人間だと思えば何の支障もない。

 

 

 

――――――それなのにどうしてこんなに後味が悪いのか。

――――――心が凍るのか。

 

 

倒してみて横たわるそれを見ればイヤでも我に返る。

魔族ならば――――――――――――ヒトではないものならば、砂となり崩れ、煙のように消えて、死骸を残さない。

残らないのだ。土に還ることを許されない。

けれど、目の前のあたしと同じ姿は――――――――――――

 

 

「リナ」

ガウリイがあたしの名前を呼ぶ。

彼を見れば彼もまた、苦い顔をしていた。

若干呆けたあたしよりか冷静な様子。でもだからこそきっと、彼は傷ついている。

今とどめを刺したのはあたしでも、彼はあたしと同じ姿に剣を振るったのだ。うぬぼれるようだけど、堪えないはずがない。

――――――――――――それに、これがあたしにとって初めてでも、彼にとって初めてだったのか。

あたしが囚われてた間にも彼は今回みたいなことを味わっては、時には自らがとどめを刺して傷ついていたのではないだろうか。

そう思ったら―――――――――尚更思わざるを得なかった。

煙のように消えてくれたら、どんなにか。

 

 

「煙のように、はイヤだな、オレ」

「……え」

諭すように言う彼はあたしに近づき、頭の上に手を乗せ撫ぜてくる。

「……偽者でも、お前さんの姿で、そういう風に消えるのはイヤだ」

悲しみの声でガウリイはきっぱりと言う。そこであたしは前にガウリイが言った台詞を思い出す。

 

 

――――――――――――煙のように消えたから。

―――――――――本当にどうしようかと思った。

 

 

捕らえられていたあたしを救い出して、泣きそうになりながら言ったことばだ。

あたしがいなくなった―――――――――魔族にさらわれた時の感想。

 

あたしの想像以上に彼は傷ついてるのだと気づく。

目の前のあたしと同じ姿が屍になることだけではなく、それがまだましになるだけの傷を別に負っている。

 

 

「…消えないわよ」

あたしは言う。逆に今度はこちらから諭すように。

 

消えない。あたしも、あたしと同じ姿も。良くも悪くも。

―――――――――ならば背負っていくしかない。これからこういう局面にあう度に、あたし達は、二人で。

何もかも割り切れないとしても。

 

「……ごめん」

弱気な台詞を口にしたことを反省するあたし。

それに彼が複雑そうな顔をしてあたしの首に自分の腕を回す。

あたしは彼のその力を利用して、代わりに――――――こちらからは彼の胴体に腕を回してあたしは自分の存在が確かなことを主張した。