Continuous cropping series story-連作・シリーズもの-
片恋痛切
―――背中にひきつるような痛みを覚えたとき。
絶望感、とまでは言わないけれど、それに近しい感情がこみあげた。
そして焦燥感。
痛い。このままじゃ足手まといになる。
「リナっ!」
あたしの状況に気づきガウリイがあたしに向かって駆けつける。
―――――敵に背を向けて。
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「お前さんといっしょに旅をするのに、別に理由なんかいらないだろ。
ま、気の向くままの旅、ってことでいーんじゃねーか?」
事件が終わって、それまでの旅の目的をなくしたところにガウリイは言った。町の通りを二人で歩きながら。
「……そだね……」
ガウリイがわしわしとあたしの頭をなでて、それが心地よかったもんだからあたしはついそう言っていた。
なんだか暖かい気持ちでガウリイの言葉に同意した。
けど、少し経ってあの瞬間を思いだして心はざわついた。だから。
「あ、でも」
思わずそれを阻む言葉が口から出た。
「……でも?」
驚いたようにそれに反応するガウリイ。
なんとなく気まずい気分に一気になる。歩きながら、あさっての方向を向く。ガウリイの方はみない。
「……変わんないから。あたしの考えは」
そっけなく言うことをわざとこころがけた。
いっしょにいるのに理由はいらない。
それはガウリイからの気持ちで、答えだろう。嬉しいと想う。嬉しいと想った。だから同意した。それがあたしの答え。
あたしは―――――自称保護者であるこの男に惚れている。ずいぶん前からだ。
そして彼曰く彼もまた、あたしに惚れてる、らしい。
お互いの気持ちが同じなら恋人にでもなんでもなるのが一般的なんだろうけれどそこにあえて踏み込まないとあたしが言い、ならそのままお互い勝手に想ってる、片思いしあおうとガウリイが提案し話がまとまってからだいぶ経つ。
―――――もしあの瞬間を見なかったら、痛みを覚えなかったら、今の言葉で、このまま、お互いの関係を変えるのも、変わっていくのもありかもしれない、なんてちょっと考えを変えたかもしれない。
きっと大丈夫、と思うようにしようと。
でも、やっぱり駄目だと想った。
――――あたしの為に迷わず戦いの最中に敵に背を向けたガウリイ。
変えてしまえばそれを当然として認めなければならないから。
それは何よりも痛くて、嫌だ。
「……そっか」
変わらない、の意味がわかったようで寂しそうな声で、またぽんぽん、とあたしの頭を撫でるガウリイ。
顔は見ない。けれど多分その声の通りの表情なんだろうな、と想った。
罪悪感のような妙な気持ちはこういうとき生まれるけど、けれどあの痛みよりはましだと想った。
でも、とガウリイは諭すように言う。
「だからってお前さんが無茶していいってことじゃないんだからな」
「……」
言われて、なんであたしの方が言いそうな台詞を、と思う。それを察したようにガウリイは言う。ちらりと見ると彼もこちらを見ず、前だけを見て歩いて。
「オレがジェイドと戦ってるときあわててて戦い乱れただろ」
……あ。
確かに。ガウリイが吹っ飛ばされたとき、唱えてた呪文をやめて―――――。
言ったろ、とガウリイは言う。あたしの頭にまだある彼の手は、やっぱしここちよいまま。
「同じだから。オレたち」
「……」
かなわないなあ、と思いながらも、あの痛みで苦しまないためにあたしは何も言わなかった。
軽い痛みを背負うことでつぶれないように努力した。
――――けれどその痛み以上の事件が訪れるのは、それからそう遠くないセレンティアの町でだった。