20 Topic for Slayers secondary creations
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-
13.かさぶた
「女がいる時といない時じゃ傷の治りの早さが違うんだよ」
そう言ったのは誰だったか。
大昔。リナと出会う前のことだ。傭兵仲間の一人がそんなことを言っていた。
顔はおぼえてる。名前がでてこないのは、自分が忘れやすいからというわけでなく、単純に名前を呼び合うことがほとんどなかったからだ。
流れの傭兵としていろんな戦場に向かう。
同じ境遇の人間同士が集まっては別れる。その場その場では協力し合うが次に会ったときには敵になるなんてことも少なくない。
不容易な馴れ合いは避けるのが暗黙の了解だった。
「つまんない人生送ってんな」
何度かそれまで傭兵仲間として協力したことのある男だった。
飲み屋で一人で飲んでるときに、商売女に絡まれて――――――のらりくらりとそれを避けた直後にそういって近づいてきた。
そういう男は、しごとしていても夜よく女といるところを見かけた。毎回違う女。その日はたまたま連れてはいなかったが――――――派手な女と歩いていることが多かったから意識しなくとも目立ってた。だから顔だけは覚えていた。
「向こうからいらしてくれたんだ。一晩くらい遊ぼうとは思わないのかね。上玉だぞ、あれ」
去っていくさっきの女の後ろ姿を見て男は言う。
「……そういう気になれない」
短くこちらは答えた。何度か言われるままに相手したことがないとは言わない。けれど金を払ってまで今したいとも思わないし、何より面倒だ。その時その時にしか関わらないとしても。
いや、その時その時にしか関わらないからこそかもしれない。
「惚れた相手としかやりたくないって?そういうのに限ってそういう相手もみつからねえんだよな」
「まあな」
ほっといてくれ、と思った。面倒だから怒る気にもなれなかったからあえて肯定した。
多分、確かその日は人を殺しまくった後だった。知らない人間相手だし別に相手の人生がどうのこうのとは思わないが、人を傷つけた後にすぐ人を求めたいとは思わない。誰とも関わりたくなくてひたすら面倒になるのはよくあることだった。
「俺はこういう仕事してるからこそ常に女を見つけることにしてる」
見透かしたようにそう言った男は俺の隣に座って酒を飲んだ。
「相手してるときはひたすら相手に本気で激しく惚れ込む。そうしてるとな、傷の治りが早いんだ」
脈絡のないその言葉の意味がわからず眉をひそめる。そうするとその男は自分の腕の無数の傷を見ながら言った。新しめの傷はかさぶたに既になっている。
「女がいる時といない時じゃ傷の治りの早さが違うんだよ。生きてる喜びっていうのか?そういうのが高まるからだろうな」
言ってることが正しいのかはもちろん知らない。
ただそう呟く男の表情は、決して軽いものではなかった。
「……なら、特定の相手の方がいいんじゃないのか」
なんとなくそう返した。すると、そうだな、とあっさり向こうは肯定した。
「けどそういう相手が見つかる職業でもねえだろ」
自嘲めいて言う。
その時、形は違えどもこの男も、人を傷つけたことでどこかで疲れてるのかもしれない、と思えた。
完全な殺人者にはなれない。
「おまえの場合、女に手出すまでいかずともそういう相手を見つけただけで効果が出そうだな、その調子なら」
馬鹿にされてるのか笑って言われて憮然とした。
けど何も返す言葉はなかった。
実際反論できるほど一瞬でも強く夢中になった女なんていたことがない。
できない気がした。
さて、俺が声かけて見るかなさっきの女、と酒を飲みきった男はその場を後にした。
それが――――――その男としゃべった最初で最後だった。確かそうだと思う。
少なくとも次の戦いで再会したとき、その男はもの言わぬ屍になっていた。
傷の回復を待つ間もなかったのだろう戦場でこと切れて転がっていた男を見たとき、やっぱり関係なかったじゃないかと思って一瞬だけ目を伏せた。
伏せて、次の瞬間からその男の事を忘れた。
そういう仕事をしていたからだった。
とりあえず今自分が生き残ることだけが大事だ。例えそれがつまらない人生だとしても。
それでも立ち止まれないのだから行くしかない。
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「あ、かさぶた」
ある日リナに言われて自分の腕のそれに気づく。
そこそこ大きな傷跡。そう言えばさっきちょっとした依頼を遂行したときに傷ついた気がする。
痛みは少なかったが改めて見ると見た目は派手だった。
「言ってくれれば治したのに」
呆れたようにその傷跡を指でたどって言う彼女。確かに傷ついた直後はリナの魔法で治してもらおうと思った。
けど忘れたのだ。忘れるほどあっさりと傷がふさがったから。
「まあ、大したことないし。もうふさがってるから」
言いながら、そう言えば傷の治りが最近早いな――――――と思って――――――唐突に記憶がよみがえった。
――――女がいる時といない時じゃ傷の治りの早さが違う。
生きてる喜びが強いから。
「大したことなくても、剣振るうときとかに影響あるかもしれないでしょーが。全くもう、言ってよ」
そう怒ったように言う彼女を思わずまじまじと見る。
もう彼女と知り合って何年にもなる。その間かなりの戦いがあり、それをくぐり抜けてきた。
その間何度も傷ついた。けど毎回彼女が治してくれた。
――――――あの男が言ったことはそういうことじゃない。けれど、ある意味その通りなのだ。
魔法と、彼女の存在そのもので今、自分は生かされてる。
傷は毎回ふさがってく。どんなに傷ついても。
『おまえの場合、女に手出すまでいかずともそういう相手を見つけただけで効果が出そうだな、その調子なら』
その通りだった。
「……?何よ、ガウリイ」
じっと見つめるオレに不審がるリナ。
いや、と苦笑って首を横に振った。
かさぶたに労るように触れる彼女を抱きしめたい感情に襲われて、彼女の手を掴む。
素直な気持ちを口にしてみたら、彼女は驚きながら真っ赤になった。