10 of us die from converting  -変換してから10のお題-

06.かんぜん(敢然)




あたしは、彼女の分身として生まれてよかったとその時初めて思った。

 

 

目の前にたたずむ男は目覚めたばかりのせいか、元からなのか少しくぐもった声で言葉を発した。

 

「お前たちが我を目覚めさせたのか…」

苦く笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

友好にすら見えるその男は、我の名前はレイ、と風に乗って聞こえる程度の声で自分の名を語った。

 

――目覚めさせた?

彼の後ろには粉々に砕け散った氷の破片の海。

硝子ではないか、と思わせるそれは、確かに氷独特の冷気を漂わせていて、それでいて溶けない。

魔力の氷。

封じられていた?…何故?

 

 

「…レイ?」

小さく、隣にいたあたしと同じ姿が眉をひそめ、何かに気付いたように堅い表情をしてつぶやく。

リナ。あたしのオリジナル。

 

カタート山脈に宝が眠っている。

どこからかあたし達は聞いてあれよこれよとここまで来たのだ。

しかしそれらしいのはなく、代わりに――この男がいた。

 

「おたからは―――どこ?」

リナの表情を受けてなんとなく緊張した面持ちであたしはその男に問う。

あたし自身はわからない。リナが顔をこわばらせる理由。

が。

「我を倒してみることだな」

 

そう答えた彼が、放ったオーラですぐに知ることとなった。

 

 

人間だと思ったものが人間ではなかった。

そんなこといくらだってあったし、ある。けれども。

「…北の、魔王が…レイ・マグナス?」

彼が放った衝撃破をあたし達は避け、リナはつぶやく。

人間の姿から変化したそれは闇の王。

魔道士協会でも触れるその存在をあたしは何故か前々から知っていた。

もしかしたら目覚める前から。

そしてレイ・マグナスも知っている。こちらは協会で習った。千年も前の大賢者。

同一のものだったというのか。そんな大きな存在同士が。

 

――――大きな過ちをあたしたちは犯した?

そんなものを開放してしまったという、大きな。

 

「うおおおおおおおっ!」

雄たけび上げてガウリイが魔王に斬りかかる。

「崩霊裂!」

アメリアが隙を狙って呪文。

「リナ!レナ!今よ!」

「フェルザ…っ」

言われて呪文を唱えかけてあたしは硬直する。

――――姿を変えてもわかる。彼は笑った。あきらかにあたしを見て。

今まで倒してきた『リナ』と同じ、嘲笑。

 

元々はこちら側の道具だったくせに、と。

はむかうことで自分の生まれを消すつもりにでもなっているのか、と―――

嘲弄。

 

「烈閃砲っ!」

横からリナが間を入れず術を放つ。あたしがきちんと唱えていれば、あたしの攻撃から間を置かずの2弾攻撃になったはずだった。

「魔王ならあたし達がちゃんと力をだせる場所で戦わせてくれてもいいんじゃないの?前倒した魔王達はそうさせてくれたわよ」

リナははりのある強めの声を放つ。

強気で魔王だけを見て言うその姿に迷いはない。そしてそんな状況ではないせいもあるだろうけれど今戸惑ったあたしの方は見ず、責めない。

「―――挑発か。まあいい。道理だな。汝らのおかげで眠りから覚めたことだし」

そう言い苦笑して一瞬で魔王はあたし達を狭い山のダンジョンから外へと出す。

どうやってなのかはわからないけれどおそらく空間を切ってあたし達に渡らせる形だろう。

山脈の間。ぽっかりと空いた広い地に立つあたし達。そして少し離れた地には―――魔王シャブラニグドゥ。

 

「アメリア、ガウリイの補助にまわって。あたしが隙を見て攻撃する。レナは」

小声であたし達に指示するリナはそこで言葉を一端止める。

それに恐怖が襲ってきてあたしは奥歯を無意識にくいしばった。

 

「…レナは、どうしたいのか。自分で判断して、もしよければあたしに合わせて」

「……リナ」

こころなしかその言葉は突き放しているけれどとてもやわらかく聞こえた。

「……あんたはあんた。そう生きていきたいなら、選びなさい」

あたしもそうして選んできたのよ、と短く呟き彼女は呪文を唱えだす。

そんなリナを見て、そうね、とアメリアが。ガウリイが笑んでそれぞれ戦闘態勢に入る。

二人も迷わないすがた。

 

そうして選んできた。ここにいる誰もが。

あたしはあたしで生きていきたいから。

だから敢然として立っている。

あたしは?

 

どうしたくてここに、彼女達といることにしたの?

 

もう一度自分に問いて、考えるより先に体が動いた。

リナの傍に寄り、言う。

「おたから手に入れたいし。生きたいから」

そう言うと呪文詠唱中の為声には出さないものの笑むリナ。

どこまでも前を向いている。それは多分、けして強さだけを知っているわけでないから得た本当のもの。

あたしはこの人から生まれてよかった。

 

過ちを犯していたとしても迷わない。

それを解決する策を終わらせるまで。

 

「行くわよ、シャブラニグドゥ」

言い放ってあたしも目の前の魔王を倒せることを祈って呪文を唱え始めた。