10 of us die from converting -変換してから10のお題-
01.ひなん(飛男)
「やっぱり、最小限の簡単な魔法くらいはガウリイさんに覚えてもらった方がいいと思うの」
突然のアメリアの発言にあたし達は目を丸くした。
4人で、食事も済ませて宿屋の食堂で食後の香茶を飲んで落ち着いてる時に出た発言。
たわいのない会話を続けていた時に、そう言えば前々から思っていたんだけど、と思い出したように言い出した。
全く予想してなかった内容なだけにあたしなんかは飲んでた香茶を危うく吹き出すところだった。
「だってこうどこかで悪が動いてるじゃない?もちろんそれぞれ得意・不得意はあるし戦う上での担当が分かれているのは悪いことじゃないと思うんだけど、魔族を相手してるのに最低限の回復呪文とか浮遊とかが使えないひとがパーティ内にいるのとそうでないのとではやっぱり違うと思うんだけど」
そう言いながら彼女はゼルを見る。
そう言えばゼルは彼女から最近『治癒』を教わったと言っていた。
多分アメリアの考えたそのあたし達個人個人の戦力の強化の一つ、と言うか1歩目だったのだろう。ゼルが学びたい、と何もないのに言い出すよりアメリアに学ばされた、と言う方がなんとなくわかる気がする。
で、次はガウリイ、と。
「・・・・あのねーアメリア。言いたい事はわかるけれど、本気?」
ため息交じりで言うあたしに、全くだ、とゼルも同意する。
「この男に魔法を使わせようなんて普通は考えないぞ。剣以外のことを望もうなんざ」
「大体誰が教えるのよ?ンな時間の余裕があるのんびりした旅ってわけでもないのに」
「そもそも魔力がどれだけあるのもわからんしな。ゼロと言う事はないだろうが」
なにも考えてなさそうな表情のガウリイを二人でちらちらと見ながら言う。
アメリアはぱたぱたと手を振って、
「あ。だから別にそんな魔法剣士にしたいとか、攻撃呪文を使いこなせるように、とかまでじゃあなくて。
『治癒』・『浮遊』・『明かり』の3つくらいは、ってこと。
これなら魔道をかじってなくても暗記すればなんとかできるしガウリイさんには役立つと思うのよ。特に『浮遊』。
空を飛ぶ魔族とかにも対応できるじゃない。剣技とかけあわせて」
その意見には思わず納得する。が、納得と賛成かということはまた別物だったりして。
「だから誰が教えるってのよ?」
「リナ・・・・・は嫌?」
「イヤ」
きっぱしと答える。
はっきし言って時間の無駄なのが見えてる。教えがいのありそうな魔道士見習いが相手とかならともかく。
だからこそあたしじゃ思いつかないことで驚いたんだけど。
「俺も人に教える暇はない。そんな時間があるなら別の事に使う」
訊かれる前にゼルも断る。
「じゃあ、わたしが教えます。それならいいでしょう?」
言われてガウリイはあまり乗らない表情。
そりゃそーだろう。
「大丈夫ですよ、ただ呪文を覚えるだけでいいですから」
満面の笑みでアメリアは自信たっぷりにガウリイに言った。
あたしとゼルはそんな彼女を見て憮然たる面持ちで成り行きを見まもることにした。
彼女の自信はあっさりと3日でつぶれた。
「ガウリイさんに、使えたらいいな、って思う気持ちがないとどーにもならないってことがよくよくわかったわ」
ため息混じりにあたしの部屋でアメリアが言う。
今更かい。
てか先にそれ考えるだろうに。
ガウリイは剣が自分の役目だと思ってて他の事は自分の担当でない、ときっぱし分けて考えてる節がある。
そーゆー男に担当でない部分を言ったって考えたこともなければぴんともこないだろう。
「やっぱり忘れやすい、と言うのはあるのね?明かりも1回はわたしのあとに続いて発動できたんだけどそれっきりで忘れちゃってたし。
でもそこまではまだガウリイさんもそれなりに聞いててくれたのよ。でも浮遊になるとまるっきり。聞いてないんだもの」
やっぱり、とちらりとあたしを見て言う。
「リナにいつも運んでもらいたいってことなのかしら」
「ちょっと!」
あたしはその言い様に思わず顔赤らめて椅子代わりに腰かけていたベッドから立ちあがってアメリアの言葉を止めようとする。
けれどそんなあたしに平然と、むしろ何故か嬉しそうに言葉を続けるアメリア。
「だっていつも空を飛ぶ時のガウリイさんはリナ担当じゃない。リナに運んでもらうの嬉しいんじゃないの?」
「あいつは単に面倒くさがりなだけよ」
眉間にしわよせてそう反論するあたし。
「そーれーにー。別にあたし担当ってわけじゃないわよ?ゼルが運ぶ時もあるし」
「でもそれって、リナが別の呪文唱えてて手一杯の時とかでしょう?」
言われて思わず言葉に詰まる。
・・・・・言われてみれば。
「とりあえず。いかに正義のためとは言え、もしかしたらガウリイさんの微かな幸せを奪うことになりそうだからこのへんにしておくわ!」
「・・・単にあんたが覚えさせるのに思った以上に疲れただけじゃないの?」
決めポーズを取って言う彼女の顔には、あたしのツッコミにより汗が一筋流れたのをあたしは見逃さなかった。
それから。
ふと空を飛ばなければならない、となった時ガウリイを見るたびにそのことを思い出す。
「頼むな、リナ」
「・・・ったくもうっ」
ガウリイの手を取り呪文を唱え始める。
増幅をかけたおかげで増幅なしの1人分と変わらないようにあたし達はふわりと宙に浮く。
「やっぱしあの時、あんたアメリアからこの術だけはきちんと教わっておけばよかったのに」
小さくぽつりとあたしはつぶやく。
どーせそう言ったって彼は覚えてないだろうと見越してのひとりごとのつもりだった。
が。
「でも、オレが魔法使うのってやっぱし違うだろ?」
「・・・・・・・」
どーやら珍しくおぼえていたらしい。
何故か軽い調子でそう言う。
あたしはいつも想像すらしようともしないのに珍しく彼が呪文を唱え一人飛ぶ姿をイメージしてみた。
・・・・・うみゅみゅ。
「確かに、ね」
本人だけでなくあたしだって上手く想像できないし、できても違和感ありまくり。
やっぱりアメリアじゃなきゃ思いつかない。
ためいきつきながら言うあたしに、だろだろ、とやはり明るく軽い調子の声。
空を飛ぶためにあたしが掴み取った手を逆に彼は自分から力を入れてきて、思わずアメリアの仮説を思い出しかけて顔が明らみそうになった。