20 Topic for Slayers secondary creations
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-
20.閉鎖
「…思ったよりもさびれたわねー」
郷里へと帰る道すがら。
あたしと旅の連れであるガウリイはとある町にたどりついた。
ゼフィーリアの国境を超えてすぐ傍のコッティアの町。
村と呼んでもおかしくないほどの規模の住人しかいないのだが、街道なども近くにあり、この辺りは宝石の原石がよくとれるということで商人の町として栄えていた。
要は出稼ぎで来た人々や買いつけるひとびとで成り立っている町である。
少なくともゼフィーリアの商人たちはここを基点としていることが多い。
―――――と言うのはあたしが郷里にいたころまでの話。
「ってことは栄えてたのか?この町」
ガウリイが辺りを見まわして言う。
そう、少なくとも目の前の街中は人気がなく、活気と言うものがまるでない。
ちょっと前にレッサーデーモンが訪れたときのアトラスもひどかったけれど、それ以上。
はっきし言ってほとんどゴーストタウンである。
「まあね、交易が盛んで、あたしが子供の頃はよく父ちゃんとかと一緒に買いつけに来たりもしてたけど」
肩をすくめてあたしは言う。
「あたしが旅に出た頃、町を一時閉鎖してからおかしくなったみたいね」
「……町を閉鎖?」
眉をひそめてガウリイが聞きかえす。
「なんかごたごたがあったみたいよ」
あたしは歩きながら適当にそう答える。
まだ日も高いからこの町は通り過ぎるつもりなのでさびれてても別にあまり気にしない。
「昔はあった魔道士協会も閉鎖解除後何故かなくなっててね。それも原因だと思うけど。
でも何があったんだかともかく商人で成り立ってる町で外からの人間締め出して一時閉鎖、なんてやってたらそりゃ他に行くわよね」
―――まあ、旅に出ている間、本当は大体のことは聞いているのだけれど。
なんでも魔道士協会の評議長の座を狙って、魔道士でもあったこの町一の商人の息子が魔道士協会の関係者達を殺して廻ったのだとか。
その商家がこの町の商売の基盤を築いていたらしく、こんなことがばれたら町のイメージに関わる、と一時事件が風化するまで、と町長の指令で閉鎖したらしい。
しかしそれが逆効果をもたらし、そこにいて締め出しをくらった商人たちは別の町に流れてしまった、ということらしい。
町長は商売経営を根本なところで理解してなかったわけである。
協会も関係者が全滅となって指揮するものがいなくなり消滅してしまったとか。
他の協会では暗黙の事実として知られているのをたまたま聞いた。
暗黙なのは簡単。
町のイメージ、というのもあるだろうけれども、それ以上に魔道士のイメージと言うのもあるからである。
「でも、サイラーグは栄えてきてたじゃないか。あんなことがあった後でも」
さすがにサイラーグの云々はおぼえてたらしくガウリイが言う。
「負荷抗力で閉鎖されてた町は、ね。それが自ら閉めた町との違いなのよ。規模も違うしね」
あちこち店が閉まっている中開いている店にあたしは目を留めた。
魔法の道具屋。
なかなか大きな店構えながら、こじんまりと『営業中』の札を掲げている。
そーいえば小さい頃ねーちゃんと来たことがあるかもしれない。かすかな記憶。
「ガウリイ、ちょっと見ていっていい?……って何よ。その目は」
「いや……ほんとーにちょっとなんだろうな、と思って」
うっ。
そりゃ掘り出し物とかに出会ってしまったりすると予想外に時間はかかるかもしんないけどそれは予測できない出来事であってあのその。
「すぐ済むわよ。宿の関係もあるしさ」
言ってあたしは店の扉を開いた。
「いらっしゃい」
若い男の人が一人、店の奥にいた。
あたしと同い年くらいだろうか。明るい金髪。
少なくともあたしが前ねーちゃんと来たときに見た店主とは違うようである。
薬草など色んなマジックアイテムがあるけれど店の半分以上が宝石の護符で占められている。
「へええ。すごいわね」
「あ。ありがとうございます」
照れたように会釈をする店主。
あたしも宝石に魔術を込めて宝石の護符を作る技術を持っている。
ある程度その腕には自信があるのだが、目の前に並ぶそれはかなりの完成度を持っていた。さすが商売にするだけはある。
たぶん元々の宝石の技術もいいのだろう。
「この辺はいい原石が取れるんで、やっぱりそれが主になってしまうんですよ。先代に教わっていた技術もそれが主で」
「先代……ってことは代々この店を?」
「ええ。先代の兄までは魔道士協会での腕も買われる程だったんですけどね。僕はたまに遠出して近くの協会に行く程度なんで……。
なかなか技術が先代ほどまでには追いつけなくて」
あたしと店主が会話している中、ガウリイは相変わらず店内のアイテムをものめずらしそうに見ている。
「でもこれだけの店……大変でしょう」
思わず出た言葉に苦笑する店主。
「町が閉鎖されてから、来る客が減っているだろうから、ですか?」
ずばりを言われ、あたしがええまあ、と曖昧に答えると彼は机の上に大切そうに置かれた宝石を手に取った。
宝石の護符ではないようだけれど、とても綺麗な緑色の石。
「利益を考えたら他の町に行ったほうがいいんでしょうけどね。魔道士もここには少ないですし。
でも代々続いている店ですし、何よりも……」
手に取った宝石を見つめて言葉を一端区切る。そしてあたしの方を見て言う。
「この場所でこの店が出ていることを覚えていてくれる人が―――旅に出た『家族』も含んで――1人でもいる限り、動く気になれないんですよ」
そう言った彼の目には強い意思が宿っていた。
―――先代の兄とやらがいないことと、兄は魔道士協会で買われてた、と言う発言からしておそらく一連の事件の関係者なのだろう。
―――被害者側の。
「おいリナ、結局なんか買ったのか?」
店を出て。ガウリイがあたしに訊く。
気がつけばちょっぴし日が傾いていた。
「んー、まあ宝石の護符をね。ひとつ」
言ってあたしは日にかざしてみる。
「そんなにすごい効果のある石なのか?」
「効果はまあまあってとこでしょーけどね……」
珍しいな、とガウリイがこぼす。
「……何が?」
「おまえさん、相当いいもんじゃないとそーゆーの買わないだろ。別に何か買わなきゃ店から出してくれない雰囲気でもなかったし」
「まあ、ね。なんとなく」
照り返した陽を受けて宝石は青く輝く。
「でも本当、おまえも言ってたけど大変だよな。これだけ寂れた町じゃあ商売は」
「ああ。大丈夫でしょ」
なんでだ?と不思議そうに問うガウリイを見る。
「どんなに廃れたとしても、強い意思と技術持った商売人が一人でもいれば結局、どうにかなるもんよ」
言ってあたしはガウリイと、郷里目指して閉鎖された過去を持つ町を、後にした。