Topic of 10 with the image from the numbers  
-数字からイメージして10のお題-

08.八方美人




「一体何に使ったの?」

静かに―――かつ少しキツめの口調で手に持ってるものを見せてあたしはガウリイに問う。

手に持っているもの。ガウリイにいつも渡している小さな麻袋である。それには彼に持たせている普段使うためのお金が入っている。いわゆる彼の『財布』。

 

普段大きなお金は彼のも含めてたいていあたしが管理し持っている。

それは二人でしごとを受けてるんでその時の報酬の分配の関係もあるし、ガウリイに金銭感覚があんましないのが大きな理由。使うときに使いたいだけあればいいって感覚だから仮に大金を落としていようがサギみたいな金額でものを手に入れることになっても、目当てのものが買えたという事実で満足して気にしないのだ。売る側としてはいいカモにしやすいことこの上ない。

で、無駄遣いや余計な失費を防ぐ意味も込めてあたしが一日にこれくらいあれば十分だろう、という金額をこの麻袋にいれて渡している。

普通に過ごせば余る程度のはずのお金。あたしだって鬼じゃないんだからひどく切り詰めた金額を渡しているわけじゃない。実際今まで夜チェックすると大体がかなりの金額が余っていた。

今までは。

 

数日前からの話になる。

あたしはちょっと調べたいことができ、しごとも受けてなかったしこの町に数日滞在することを決めた。

魔道士協会の図書室に日中通いつめることになる。と、なるとガウリイをつれて行くには鬼門な場所なので別行動になる。

 

「お昼とかも勝手に食べてね。あたし、調べものに夢中になったら時間約束できそうもないから」

「そんなに興味あるものなのか?」

「んー、完成してない魔術の知識にもしかしたら関わってるかもしれないのよ。ずっとその可能性に思い至ってなかったんだけど」

前気づけなかったことに何の前触れもなく気づくことって結構あると思う。

「ここの協会の図書室の蔵書なら核心に近づけそうだからさ。夕方には宿に帰ってくるわ。夕飯は一緒に食べられるから」

「わかった」

「まあ、結構大きな町だし。適当にやってて。暇ならガウリイお得意の昼寝もあるでしょ?」

言っていつも通り麻袋に一日分のお金を入れて彼に渡した。

 

一日目。珍しく麻袋が空になった。

まあ、そういうこともあるかなー、とその時は気にしなかったのだが、二日目、三日目と空が続くとさすがに不審だと言いたくもなる。

 

 

「何…って昼飯に」

あたしの問いにたどたどしく彼は弁明する。

いや。確かに名物料理とかもこの町あるみたいだからそりゃ本気で食べればお金はかなり使うかもしれないけどそれにしたって少しは余るだろう。どれだけ食べてるんだ毎日。

「どこの店?」

さらに問うと困った顔をして無言。言えないのか、それとも忘れてるのか。…多分この様子は前者。

でも無理矢理問いつめたところで言いそうもない雰囲気。仕方なく、ため息ついてあたしは言う。

「まあ、あんたの金なんだし、あんまり言いたくないけど…限りあるんだから、あんまし使いすぎるとその分後で少なくしか渡せなくなるかもしれないから、計画的にね」

簡単に引き下がりつつもキッパリととがめる口調は変えずあたしは言って明日の分のお金を小袋に入れて彼に渡した。

こう言うときは別口で攻めるのみ。

 

 

翌日。

四日目ともなると調べる書物も限られ段々まとまってくるし余裕もできる。

休憩がてらあたしは昼に外にでる。うん、久しぶりにちょうど昼時。ここんとこ微妙にずれていた。おかげで食堂とか混むことなかったけど。

そこで、お昼ご飯をどこで食べるか考えるついでながらに町の人に聞き込みをする。別口作戦である。

 

「旅の金髪の剣士の兄ちゃんねえ。…そういや数日前から『ソルトッシュ』で見かけるな」

「『ソルトッシュ』?」

あちこち旨い店の名前はここ数日聞いててあたしも食べてきたけどその名前は初耳だった。

どこにあるのか、と問うと町中と言うより外れていて、ンなところに店があるのか、と思える場所を教えられる。

「味はそこそこだよ。有名店と違ってさびれてて、近所の地元民のみが愛用するような食堂だから地元民以外がいると目立つんだ」

「そう。ありがとおっちゃん」

言っておっちゃんが売ってた焼き鳥を数本買って、食べながらその店に向かう。

 

地元民が愛用する、ということはそう高い料理を出す場所ではないだろう。と、なると。尚更金の使いどころが不明なわけで。

大量に食べたにしては夕飯時おなかすかせたように食べてるし。まあ、夜と違って日中だからそうそう怪しい店に出入りしてるとかは考えてないけどガウリイが言えないのが気にかかる。

 

「ここ、か」

言っちゃ悪いが安っぽい看板にお世辞にも綺麗な作りでない建物。確かに観光客向けじゃない。

なんでここに入ったんだか、と思うけど中はにぎやかそう。がやがやとした声が聞こえる。やはり地元では人気なのか。

意を決して中に入る。

 

ガウリイがこの時間にちょうどいるか否かは正直確率半々だと思ってたのだが―――いた。

―――大勢の子供に何故か囲まれて。

 

「…あ」

店に入ってくるあたしの姿に、弱った、と言った表情。

「みつかっちまったか」

「って…何してんのあんた」

興味津々であたしを見て、お兄ちゃんこのお姉さんだれ、とかわるがわる言いながらテーブルの料理を子供たちはたらいあげる。

…なるほど。昼飯に確かに使ってたけど数人がかりで食べてたわけか。

呆れつつも、下手なお金の使い方でなかったことにやっぱし内心ほっとしている自分がいた。

 

 

「暇だったから町をうろうろしてたら、あの子たちに出会って」

食事を終えて子供たちと別れて。町を歩きながらガウリイは説明する。

「あの食堂近くで、事情のある子たちが集まってみんなで協力して生活してるんだってさ」

ここら辺は国境付近でもあってちょっとした紛争が少し前まで起こりやすいらしい。

今は安定しているから観光地としてやっているものの、数年前起きたそれで親を失ったりした子供が多いのだという。

 

「で、ちゃんとした飯ずっと食ってないっていうから。なら食わせてやろうかなーって。言ったら全員が集まってきて」

そりゃあそうだろう。

二十人位はいた。その中で数人だけを優遇するというのは無理な話。

全員に良い顔したガウリイはあの店でみんなと食事していたらしい。なんだかんだで言いくるめられて毎日。

 

「ばっかねえ」

あたしの呆れてでた素直な言葉にガウリイは苦く笑う。

「ンなことしてたらキリがないじゃない。あたしが用終えてこの町でるのが短期間だからできるけど、長期になったら破産するわよ」

いやもちろん気持ちはわかるし、なんとかしてあげなきゃいけないとはあたしも思う。けど方法が間違ってる。

こういうのはこの町の領主を動かすとか根本的な改革が必要なのだ。今だけあまやかす、という中途半端な手のさしのべ方はかえって残酷でしかない。

「…そういうと思ったから、言えなかったんだがなあ」

聞こえるか聞こえないかの小さな声でガウリイが言う。自覚はあったらしい。それでもやめなかったのがらしいというかなんというか。

 

「あんた、八方美人よね」

ため息まじりにあたしは言う。まあ、女子供に優しくが信念の男だから仕方ないし、今回は子供だったからまだましだけど。

あれが普通に大人の女だらけだったらどうしたらいいものやら。事情があったらガウリイならありえそうだから怖い。よかった。本当によかった。

誰にでも優しいし、いい顔をしやすい。彼の長所であり――――短所だ。

 

「そうか?」

あたしの言葉に眉をしかめて憮然とした顔になるガウリイ。どうやら本人としては否定したいらしい。

隣を歩きながら彼は頬をかきながら珍しく強く反論する。

「一途だと思うけどなあ、オレ。結構」

「……」

思わず無言でしか返せない。

 

そこで反論としてでてくる言葉がそれはどーなんだ。意味わかってるのかこの男。わかってないんだろうけど。

―――――その八方に向けられた笑顔の中で彼なりの特別な一つだけの方向は誰に向いてるのか、なんて訊きたくても訊けない。訊きにくい。

 

 

「じゃああたし、もうちょっと調べてものしてから宿帰るから」

歩いてるうちに協会の前に着き、あたしは言う。

「あ、ああ」

背を向けようとるものの何か言いたそうな表情でもごもごとガウリイはしながらあたしを見送ろうとする。その表情に苦笑する。

「…ついでにあの子たちどーにかできないかの方法とかも調べもののほかに考えてあげるから。もうしばらくこの町にとどまるわよ」

 

あたしの言葉に笑顔になる彼に、明日の麻袋の中身はどうしようかと思ってあたしはもう一度いろんな思いをこめたため息をついた。