Topic of 10 with the image from the numbers
-数字からイメージして10のお題-
05.五分五分
「――――五分五分だと、思ってたのよね。あの頃」
ため息をつくように、苦笑して。あたしは呟いた。
―――セレンティア共同墓地。
ここに訪れるのは何年ぶりだろうか。
ちょっとばたばたしていて―――っていつもそんな感じだけど―――なかなか来ることができなかった。
それでも、ここの空間は変わらない。
景色も。風も。時を止めたままそこにある。目の前の彼女の墓もきちんと掃除され、荒れることなく保っていた。
彼女を救えなかったと苦悩したあの人も変わらずここを訪れているのだろう。あたし達より傍にいる分、ずっとまめに。
「……何が?」
花を持ったガウリイがあたしに問う。
あたしは彼からその花を受け取り、かがんで彼女に手向ける。
「いろいろ。総合的な強さとか、交渉能力とか。……コンビネーションとか」
誰と誰のことを言ってるかはこの状況なら言わずもがな。
「……あたし達に、似てるなって。…そのせいかな。だから互角で、やりとりしてるとあの頃は思ってたのよ」
男女の二人組だったのとか剣を探していたとか。
状況が似ていたせいか出会ってしまったし、言い合ったりからかったり。争ったり。
気がついたら仲間として認識していた二人。ゼルやアメリアと違う位置で彼らを内側に入れていた。内側のやりとりをしていた。
彼らもそうだったと思ってたし、そうかもしれないとも思う。でも。
「違う、のか?」
「―――きっと、彼らの方は距離を置いてた。あたし達に、意識的に」
「フルネームの件、か?」
あたしは黙って首を横に振る。
確かにそれもあるけど。それよりも、フルネームの事に気づいて泣いた後、そのことに気づいた。口にするのは初めて。
「……呼び捨てしなかったでしょう。あたし達のこと」
ああ、と言った後ガウリイはでも首をかしげて答える。
「でもシルフィールとか他の連中だってさん付けのやついたじゃないか」
「シルフィールとか、どんな距離感でも普段からそういう子は別よ」
あたしは割とあたしの名前は呼び捨てして構わない、というスタンスを取る。信用できる人間には。
彼らにもそれっぽいことを言ったと思う。
今ここにいる彼女だけならシルフィールと同じタイプと見たかもしれないけれど―――。
「…ジェイドとかには普通に呼び捨てしてたし、彼の性格からして、わざとだったと思う。だってあたし達側は呼び捨てしてたわけだし」
「………」
「信用してなかった……なわけじゃないと思うけどね。そうじゃなきゃ、最後にあんなこと頼まないだろうし」
あたし達の手で、自分を―――。
「距離を置く、理由が、きっとあったんだと思う」
もしかしたら過去のことでかもしれないし彼女とのやり取りでそうなったのかもしれない。
けどそんなことに気づかず、あたしは五分五分の関係を築いていると思ってた。
「……なのに、何も気づいてなかったんだなあって今は思うのよ」
――――あの時のあたしは、一体何をみていたのだろうか。
彼らはきっとあたしよりも、ずっと先にいた様な、そんな気がして今はならない。
今なら気づけること。きっといくつもある。
ミリーナが言った『不器用』の意味。
『俺のミリーナ』に『あなたのじゃない』と拒んでいた真意。
彼女もまた―――五分五分の位置を保ちたかったのかもしれない。あたし達に、でなく、彼―――ルークに。
―――今のあたしみたいに。
今やっと――追いつけたようなそんな感覚。でも。
「……今更、かな」
後悔するわけじゃない。ただの確認。
前を悔いたってその事実は覆せないから。
この場所は変わらない。だからこの場所に来るとやっぱり、背負ってるものを感じる。
背負ってきたもの。ルビアや彼が教えてくれた。忘れられないこと。その通りで――でも忘れる必要なんてない。
歩いてきた力。
ガウリイがわしゃわしゃとあたしの頭を黙って撫ぜる。
「……泣きたいなら、泣いてもいいんだぞ」
見ればいつも通り彼は優しくあたしに笑む。
「…大丈夫よ」
あたしはそれに笑みを返した。
―――あたし達は今どこにいるのか、未だ自信はない。
あの頃と変わった、といえば変わったんだろうけど別に何か約束したわけじゃないし。アイノコトバを囁いたこともない。囁かれたことがないかというのはさておいて。
どこにいるべきなのか、位置を、あたしがわかるまでそれでいい、と変わらないいきかたをしている。
次にここにきたとき、まだ、彼らはそんなところにいたんだな、と足跡を見るように思えてるのだろうか。それとも。
「……少なくとも嬉しかったと思うぞ。それでも。ルークは」
同じ距離でなくても。距離を近づけようとするあたし達に。
互角なだけが心地よい形じゃない。それはそれで知ってる。望んでいたものとは異なるけれど。……目の前の人には当てはめたくないけど。
彼はあたしよりも早くそれを知っていたのだろうか。そんな言葉をくれる。
そうね、とあたしは呟いて彼女の方に今度は微笑みかけた。
「……でも。負けないから。あたし」
負けず嫌いだなあとその言葉に苦笑するガウリイを横に、これから歩く分の力を信じて――あたしは全員に止まった場所で宣戦布告した。