20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

18.二人組


 

 

「あー……」

 

まどろみの中、耳に入ったそのうめき声にあたしは目を覚まして固まった。

 

まだ夜も明けてない宿屋の一室。

一人で寝るには広すぎるが、かといって二人で眠るには少し狭いベッドの上にあたしはいた。

隣にはあたしよりでかい図体の金髪の剣士。

つい最近まであたしの保護者を自称していた男。いや、今ももしかしたらそうだ、と彼は言うかもしんないけど少なくとも今この状況でそれを第三者に言ったところで無理があるだろう。

先ほどまで、このでかい裸体はあたしの上にいた。

あたしは初めてこの男と――――ガウリイと、まあ、いわゆる、その。そういうことをした。

 

…まあ、いつかはこうなるんだろうなあとはなんとなく思ってたし、もちろんそうなるだけの過程はそれまでにお互い一応それなりには歩いてきてたし。

昨夜彼からミョーな押しで求められた時は、ふわふわした気持ちの中でもわりとどこか冷静に、頷いてそれを受け入れた。

ものすごく時間かけてゆっくりやさしくしてくれたせいかさほど思ってたほどには痛くなくすんだ。それでも今まであり得ない衝撃とかいろんなものがあって恥ずかしさ通り越してすごく不思議な感じだった。あたしがあたしでないみたいで、そしてガウリイも普段のガウリイじゃないみたいで。

 

しかし。そんな中―――お互いの体をゆっくり離して、息を整えて。しばしシーツに身をゆだねて出た彼の第一声がそれである。

思わずあたしは現実に戻った。

その声が、すごく満足した感嘆の声ならばあたしはそのまま夢うつつの中にいただろう。しかし。

「……なに、そのがっかり声」

乙女として到底聴き逃せない声過ぎた。

 

「あ、いや。…別にがっかりしてるわけじゃないぞ」

言ってガウリイは慌てたようにあたしの体を自分に引き寄せる。

くちびるを寄せてくる。けれど手であたしはそれを止めた。

うやむやにされる気がしてイヤだったから。

「……嘘」

あたしはにらみつける。なんだか冷たいものが胸にじわじわとこみあげる。

 

何気ない声。でも、だからこそ本音が見えてくる。

あたしを抱いてがっかりした。その理由なんて想像がつく。

あたしにとっては初めてでもガウリイにとってはそうでなかっただろう。むしろ初めてだった方が驚くし、とてもそうは思えない扱い方してたことはあたしがよくわかってる。

だからそれでがっかりしたのなら――――きっと、比べたのだ。

今まで相手してきた女達と。

 

「……悪かったわね胸なくて」

言ったあたしの声は我ながらなんだから泣きそうだった。

それにガウリイが尚更慌てる。

「いや、違うって。そりゃお前さんの胸がないのは確かだけ…っ」

あたしが彼の体を思い切りつねったから彼の弁明が一瞬止まる。

てか弁明じゃないし。

けどすぐに彼は言い直す。

「でも不満だったらそもそもこんなに触ってないし」

言って彼の手があたしの胸の下あたりを這うからあたしは手をぺしんとはたいてやる。

 

何度も言うが初めてだったというのに。そっちから望んだ癖に。信じらんない。

 

「リナ」

ガウリイの手があたしの手首をつかむ。つかんで彼があたしの上にかぶさった。

「…っ」

くちびるを塞がれる。思い切り吸われて思わずさっきの感覚がよみがえり体がしびれる。

あたしの抵抗する力を無くしてからくちびるを離して彼は言う。手首は離さないまま。

 

「…、がっかりしてないぞオレ。後悔もしてない」

「……」

きっぱりと迷いのない瞳で言う。けれど、ただ、と少し弱きな顔になり言葉を続ける。

「…ただ、な。…これでオレ、本物の『ヒモ』になっちまったんだなあって思って」

「……は…?」

ガウリイの言葉と、呼吸の乱れから我ながら間の抜けた声が出る。

苦笑する彼。あたしの胸の上に顔を落とす。

「今まで、そう言われても否定できたから。手出してないから違う、って」

保護者だって自信もって言えてたけど、と言ってあたしの胸をなめる。あ、とあたしはそれを制しようとするけど彼に腕は拘束されたまま。

「…お前さんをこれからも護るし、だから『保護者』っちゃ『保護者』なのは変わらないんだが…でもこれで本当に『ヒモ』になっちまったんだなあと思ったらちょっと自分にがっかりした」

肌を吸われて刺激にまた変な声が漏れる自分がいた。

 

「でも、後悔してないし、抑えられないくらいこれだけ惚れてるんだからもう仕方ないよな」

自己完結した台詞で苦笑してあたしを見つめるガウリイ。

ばか、とあたしはつぶやく。

「…あんた、ねえ…どーゆーこと気にしてんのよ」

「男としたらわりと気になることだぞ」

即答される。

そりゃ、今まで何回か、彼をヒモ扱いしたことはある。人への紹介だとか他もろもろで。

でもまあ冗談みたいなもんだし何も言わないから気にしてないのかと思ってたら。ていうかそんな気にすることか。もしかしてそれで今まで自制してたのかこの男。

 

 

「……ちゃんと働いてれば別にヒモにならないでしょーが」

「え、難しいだろ」

難しいのか。

情けない顔をしつつもあたしに触れるくちびるはやめない。

あたしは腕を捕まれたまま少しだけ上体を起こして彼の顔に自分の顔を近づけた。

至近距離で仕方なく言ってやる。

 

「…あたしを護るってしごとをちゃんとしてるでしょ」

 

あたしがあんたを雇ってるのよと言えば、そっかと納得するかなと思ったらちょっと不満そうな顔をした。

「別にお前さんをしごとで護ってるわけじゃないぞ」

どこまでも細かいことを気にする。

ため息ついてあたしはもう一度言葉を紡ぐ。

「…そういう肩書きもあってもいいんじゃないって話よ」

 

実際今のあたし達は冒頭に言ったとおり第三者から見たら多分『保護者と被保護者』という関係にあてはめにくいだろう。

元々お互いの気持ちを確認したあたりの頃からそういうのが曖昧になりつつあった。あたし達自身も説明しづらかった。

けど、わざわざガウリイの言うそれをあえて選ばなくていいはず。

 

「……そもそも、『恋人』なら全然問題ないし」

「でも、親御さんにとっくに挨拶してるしなあ。そう言うなら『夫婦』のが合ってるよーな」

「それは、いろいろ足りてない」

言いながらガウリイのあたしの手首をつかむ力がゆるんで、そのままするりとお互いの指が両手とも絡まる。

くすぐったくて、それまでしたことと比べたら全然大したことないのになんだか照れがふつふつと沸いてきた。

思わず瞳を閉じたらあたしの上体が再びベッドに沈む。もちろん彼はあたしの上にいたまま。体重が少しかかる。

 

「じゃあ、『婚約者』?」

言ってあたしの首筋と耳を甘くかんでくる。あたしはそれに瞳を開けて身じろぎながら苦笑した。

あたしに言う言葉が足りてないって言ってんのにわかってないあたりが。まあガウリイだし仕方ないけれど。

 

――――それにしても、そう考えると今更だけど本当色々な呼び名肩書きがあるな、と思う。そしてそれに今更こうなってからこだわってみてるおかしさ。

無機質な言い方すれば今も昔も『二人組』。あたし達を表す関係。

『旅の連れ合い』。『相棒』。よく知らない第三者とかからなら普段は今でもそれでいい。

よく知ってる人間ならば『自称保護者と被保護者』とか、さっき言った『あたし用の護衛仕事人』とかで照れてごまかしたり。

そんなにあっても、それでも関係を表すことばを探そうとしてるのはあくまで自分の中で納得するものを見つけるため。

そんなにあっても、なかなか見つからないから全て手放せない手放さない贅沢さにきっと彼は気づいてない。それだけのものが生まれたのが今こうなったからだ、ということも。

 

「…お前さん、初めてだったんだから今日これ以上は、やっぱダメだよなあ、まだ」

こんだけ触って押し倒しててあからさまにそう思ってない癖に、自分に言い聞かせるように呟く彼。いや思ってないからこそ制する為に言ってるのか。

それでもあたしを気遣ってくれるとこがらしいけど。自称保護者として。でもヒモに成り上がり。

 

「……『ばか』」

 

あたしは言い慣れた、彼を表す――――いや、そんな彼に脳やられてるあたしも含めた二人組を表す肩書きを新しく口にして、気恥ずかしさより別の満たされた想いから絡めたままの指に力をこめてもう一度瞳を閉じた。