20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

16.大嫌い


「あんたのそーゆーとこ、あたし好きよ?」

 

――――最初にそう言った時は単純な感想というか、なんてことはないかけ声のひとつのつもりだった。

けどその時相手の一瞬だけ見せた揺らぎ―――困った表情を見せたのをあたしは見逃さなかった。だからその後もあえてそう言った言葉を紡いだ。

もちろん嫌がらせだ。アメリアも似たようなことをしていた。

――――負の感情が好物のその存在は逆の感情を嫌う。

実際それが本当なのか、どれだけの効果があるのか。あたしは知らない。

―――それでも、あいつといる時に好物の感情を与えたくなくて、あたしはあえてそう言った。言うのが楽しかった。

決して本心から言ったことはない。言うわけがない。

あたしの周りにちょこまかと現れてはかき乱し、消える物体。

後ろがごきぶり似のパシリ魔族―――獣神官ゼロスに。

 

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「……お久しぶりですね、リナさん」

「――――」

とある夜。

久しぶりの彼はあたしの宿の部屋にて突然姿を見せた。

一瞬たじろぎそうになって――――あたしは心を制して彼を見据えた。

「――――いきなり、何の用?」

 

いつもの、感情のない笑顔。むかつくほどに。

「あんたが、用なしに出てくるわけないわよね」

ちらり、と部屋の壁の横を見る。その向こうにはあたしの自称保護者がいるはずなのだが気配はない。

寝ているのか、それとも――――

「あ、ガウリイさんには少しだけ眠ってていただいてます」

察したように言うゼロス。あたしはその言葉を反芻する。

「……少しだけ。…危害もなく?」

「まあ何を危害というかは人それぞれですけど、少なくともガウリイさんには一時的な強制睡眠以外何もしてませんよ」

そう言うゼロスにあたしは安心する。

この男は誤解を招く発言はするけど言ったことに嘘はない。つまりはガウリイは無事だと言うこと。

 

「……ガウリイには、なのね」

「おや。気づきましたか」

あたしは苦笑する。つまりはあたしには危害を加えないとは言ってないと言うこと。

 

「で?さっさと言えば?どうせまたお役所仕事でなんか命令されたんでしょ?」

「さすがリナさん話が早い」

上機嫌で言う彼にイライラする。

けどその感情は殺す。負の感情で喜ばせたくない。

逆の感情を与えてやる。

 

「あんたの命令以外の余計なことしないとこ、あたし好きよ?ガウリイに手出さないとことかね」

「……それは、どうも」

「で、命令内容は何。秘密とか言わないでよ」

「――――リナさんを、捕らえることです」

 

言っても誤魔化されるかと思ったのにゼロスは静かにそう言った。

あっさりと言った彼の真意はもちろんわからない。

 

「それ以上は秘密ですけどね」

指を口に当てて言う。もう一度苦笑した。

「…一番でっかいとこが秘密じゃないし」

「でかいという判断もひとそれぞれですよ」

どうしますか?と問われる。抗って捕まるのと素直に捕まるのとの二択のつきつけ。

 

「――――後者を選んだ場合ガウリイの身の保証はされるのかしら」

考えたふりをしてあたしは言う。

前者を選んだらどうするか、という問いはしない。決まっている。

だから、せめて逆を紡ぐ。

 

「そうですねえ。間違いなくお約束しましょう」

はっきりとした口調で言うのに思わず笑みがこぼれる。

「…本当、あんたのそういうところ好きだわ」

 

その時のゼロスの表情は今となっては思い出せない。

けれど――――最後に見たのは確かに彼の顔。

そのことになのか、抗わないことを選んだことにか。ごめんガウリイ、と心の中で呟いたのはどちらにか自分でもよくわからない。

次の瞬間―――あたしの意識は闇に飛んだ。

 

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「……もう、大丈夫だ、リナ」

――次に目が覚めたときはガウリイの腕の中にいた。

他にも傍にはアメリア。…どうやら彼らが助けてくれたらしい。

魔族らがたくらんでいた計画も、そのボスも倒した―――その話を後で聞き、ゼロスをも倒したという発言を聞いたときあたしは思わず固まった。

 

「え?」

 

――――あの男を倒した。

もう、いない。どこを探してもどこにいても会わない。

 

「どうした?リナ」

あたしの反応に眉をひそめるガウリイ。

「だってゼロスは魔族なんだから問題ないだろ?」

そう、言われる。

 

そう。確かに。いなくなった方がいい存在。

あたしが好き好き言ってたのは単なる嫌がらせ。こちらが強気になるための言葉。本当なわけがない。もうそんなこと言う必要ない。

もう会いたくもない。なかった。なのに毎回ひっかき回された。

そうして知らないうちにいなくなった。

 

「そう、ね」

あたしは気を取り直して強い口調で言う。

「大っ嫌いだしあの男」

 

そう発言して笑うあたしに―――何故かガウリイが悲しそうな顔をした。