10 of us die from converting -変換してから10のお題-
07.あつい(あ、つい)
「なんかリナにしては珍しく乗り気じゃないわよね」
目の前のアジトの洞窟入り口を木々にまぎれつつ観察しながら、いぶかしげにアメリアが言う。それはゼルにもさっき言われたことば。
「そう?」
そう見えるのだろうか。首をかしげてあたしは答える。
乗り気にならないわけがないのだ。何しろ今回のしごとの依頼は、山の洞窟にすみついている盗賊団をなんとかしてくれ、ということなのだから。
これがまた話を聞くと結構な規模でこの辺を荒らしまわっているやつらしい。ということはそれだけ蓄えているものも大きい、と思われる。プラス街の人たちの依頼だからそこからの依頼料もある。これがまた思ったより多かった。
正直言ってこんなにおいしひ仕事最近あんまりない。これでなんの不満があるとゆーのか。
「だって正義の心に燃えて、わたしが返事したからこのしごと受けたことになったけれど。いつものリナならわたしより早く、依頼を受けるって返事を息巻いてそうだったのに」
「や。思いのほか早くアメリアが先に答えたからだって」
ぱたぱたとあたしは手を振るけれど彼女の疑念は消えてないような表情。
ちなみにゼルとガウリイはアジトを中心として反対側に待機中である。
「ガウリイさんもあまりこの依頼乗り気じゃなかったみたいだし。こーゆー依頼前にもいくつかあってその時はなんとも思ってなかったみたいなのに」
言われてみれば。
あたしが盗賊いぢめをするときはあまりいい顔をしない自称保護者だけれども、ちゃんとしたしごととなるとそれは別のようなのに。
確かに珍しく何かいいだけではあった。あんまし気にしなかったけれど。
「じゃあわたしあのあたりに火炎球投げ込むから。そのあと、洞窟の中入ってボスを目指すわ。外の連中はあの二人が片付けるって言ってたし。リナは同じく洞窟の中突入で例の怪物を倒して」
「例の怪物?」
「……まさか!聞いてなかったの?リナ。ガウリイさんの影響ッ!?」
唱えかけた呪文を中断して彼女は驚愕する。
しかし本当に記憶になかった。さっき依頼をうけた席には確かにあたしもいたはずなのだが。
「凶暴なモグラっぽい怪物を飼いならしている『土竜の爪』!盗賊団だけでなくその怪物による被害も大きいって言ってたじゃあないの!」
言われて見れば言っていた様な気がする。あれ。本気でガウリイの忘れっぽさがうつったかあたし。
なんか声がしたぞ!という見張りの盗賊団の声。どうやらアメリアの熱弁が聞こえたらしい。
「とにかくそんなわけで行くわよリナ!」
「おっけー」
そう答えたあたしの声は自分でも不思議なほど弱かった。
―――山の中アメリアの若干威力を抑えた火炎球が見事に炸裂する。
慌てふためく盗賊たち。洞窟から出てきたのも元々の見張りもいる。かなりの人数。それにあわせてガウリイとゼルが現れそいつらをのしていく。
「じゃあお二人ともお願いしますねー」
アメリアがゼルとガウリイに声をかけ、あたしたちは洞窟の中へと駆け出す。
気をつけろよ!と最近にしては珍しくガウリイが声をかけたのを後ろで聞いた。
洞窟の中は大きく二つの道に枝分かれしていた。
と言ってもこれは街の人から聞いて知っていた。盗賊団がここに住み着く前に探索したことのある人がいて地図と言うにはおぼしいものの大体の感じは聞かされていたのである。
「じゃ、わたしはこっちに行くからっ」
左のルートをたどるアメリア。
そちらのほうが奥深くにいける道で、地形を考えたらボスはそっちにいるだろうという判断だった。
「烈閃槍っ!」
お互いの声が道を分かれても尚しばらくかすかに聞こえた。さすがに洞窟内では派手な魔法が使えない。
あたしは右の道。
こちらは距離は長くないものの幅が広く奥が広くなっているらしい。となるとその化け物とやらを飼っているならこちらの方だろう。まあ、もちろん洞窟外に隠して飼っているという可能性もあるのだけれど、地形などを見た限りそれはなさそうだった。
しかし何故だろう。奥へと進むたびに不安がよぎるのは。
「明り」
微かなランプの光が等間隔に置いてあるのだけれどかなり暗いためあたしは呪文を唱える。
ぎゅぎゅ、と言う動物の鳴き声。
近づいてみればアメリアが言っていたとおり。モグラのような怪物。ような、ていうかでかモグラ。がでっかい鎖によって繋がれていた。
この手の人が乗れるほどの大きなモグラをあたしはその昔見たことがあるし実際乗っている。普通はドワーフとかが飼っている、というか飼育していて地上ではまず見ることはないだろうから怪物呼ばわりされても仕方ないかもしれない。
多分なんらかでここのボスが発見してそれを育ててなつかせた、というところか。
普通に育ててれば実害はないはずなのだけれど街が被害にあっている、という話からするとそういう育て方をして。
現にあたしを見たそれは、あたしにか、それともあたしが生み出した光に対してかやたら興奮して鎖をがちゃがちゃ鳴らす。
まー洞窟の奥なわけだしこの大きさなら青魔烈弾波あたりでいいだろう。
早いとこ終わらせてここから出ようと呪文を唱え始めて、はた、と思う。
いや。なんでここ立ち去りたいんだろあたし。おたからがここにはなさそうだからか?だったらアメリアの方に行きたいと思うはずなのになんで立ち去る?
・・・・・・ま、いーや。考えないようにしよう。なんとなく。
術を放てば短い悲鳴とともにモグラはあっさり倒れる。
がた。
傍にある箱みたいなものを拍子に倒した。
位置からしてえさ箱、というところか。
・・・・・・・あれ?
えさ箱の蓋から何かが見えたようなその瞬間あたしの視界は黒くはじけた。
「リナ!」
ガウリイの声にはっと気づけばあたしは何故か外にいた。
えーと……
何故か働かない頭で状況確認すると。
目の前はなんか洞窟崩れてるわ森燃えてるわなんかすごい状態。
ゼルがなんかコゲてる。
アメリアがなんかぼろぼろになってこっちにらんでる。
んで。心配そうな顔のガウリイがあたしを羽交い絞めにしてる。
……羽交い絞め?
「ちょっと、ガウリイ離してよ!なにこれ!?」
言われてガウリイはぱっと、離して言葉をつむぐ。
「大丈夫か?」
「大丈夫かって一体……」
「――――本気で覚えてないのか」
怒りと言うよりも不思議そうな表情であたしを見て言うゼル。
いや。覚えてないのかって何が。
「洞窟内で攻撃呪文連打したのよ」
……は?
「誰、が?」
その言葉にみんなが黙り込む。
その展開からすると、あたしが、のようだけれどその記憶はない。
「ほんっと。死ぬかと思ったわ、洞窟崩れてくるし、途中でリナ見つけても錯乱してるし暴れるし」
「いやそんな3人で何の冗談を」
ぱたぱた、と手をふる。するとガウリイがアメリアに小声で耳打ちしだした。
「多分、本当に覚えてないんだと思うぞ。前にも似たようなことあったんだ。どうも恐怖心からその間の記憶ないみたいで」
こしょこしょと後の方が聞き取りにくくて聞こえないけどそんなようなことを。
一体何の話をしているのか。
「それで乗り気じゃなかったわけね…」
怒りが納得に転換されたらしい。ため息ついてこっちを何か言いだけに見つめる。ガウリイさん、先に言ってくれればリナの担当分野を変えたのに、とこぼす。
いや実際あたしにとちゃんと言ってくれたほうがありがたいんだけど。でもあたしには心当たりないけど。
意外な話だな、リナがあんなものに弱いなんてとゼルが横でつぶやいている。
えーと……。
話を整頓しよう。
どーやらこの惨状はあたしが作り出したらしい。で、ガウリイがそれを止めるためあたしを羽交い絞めにしたと。
じゃあなんであたしはここまで暴れたのか。
恐怖かどーのこーのと言ってるが基本的にあたしは大モグラにおびえるような理由はない。うん。別に見ても冷静だったし。
でも暴れたのは事実みたいだし。でも覚えてないし。
「あー……つい?」
ぽむ、と手を叩いてその結論に達する。
そういうと何故か痛ましげに目を逸らすさんにん。
記憶にないと言うことは記憶にない程度のということであって。そーか。あ、つい。なんとなくこみゅにけーしょんでやってしまったのかあたし!をを納得がいく!
「……まあ。何はともあれとりあえず依頼は果たしましたし。森消火して帰りましょうか」
アメリアの疲れたようなその言葉にそうだな、と男2人もうなづく。
あたしもうなづこうとして。ふと気づく。
「てかおたからはっ!?」
「それをお前がこの状況で言うか」
完全に埋まった洞窟を目で指してゼルがしごく冷たく言う。
結局森焼いたこともあって街の人からの依頼料はちょっと減らされてるわ散々なものだった。
崩れた洞窟に呪文唱えて穴あけておたから取ることも考えたのだがなんとなくする気になれなかった。
つい、って恐ろしい行動だと思う。
そして。なんか昔ドワーフの店を手伝ったときの夢とよくわかんないものにうなされる日々が数日続いたのだけれど、それも未だに理由は謎である。