20 Topic for Slayers secondary creations 
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-

17.足音


―――いつからか、足音が近づく、夢を見るようになった。

 

 

「足音?」

街道を歩いていて、隣にいたリナが訊き返す。

今日はニギタケを追いかける夢を見た、とかリナが言い出したことで話題が覚えてる夢、になった。

あんたのことだから覚えてないでしょう?と言われ必死に考えて。

思い出したのがそれだった。

足音。

 

「ああ。時々見るんだよな。それ以外の印象がないんだが」

「単にあんたが覚えてないだけじゃない?」

そうあまり興味のなさそうな口調で呟く彼女。

 

一緒に旅をするようになってから2年は経つか。

会った時には15だと言っていたから17かそこらにはなるのだろう。外見が全く変わらないように思うがそれも一緒にいるから気がつかないだけかもしれない。

中身も同様。

会った頃からしている盗賊いびりは相変わらず続けているし、やっかいな事に足を突っ込みやすい性格とかは変わらない。

放って置けない。

純粋にそう思って、彼女の保護者を名乗ってきた。

 

「でも、覚えてる程度には何度も見てるんだぞ」

「はいはい」

適当にあしらうように言われてもあまり反論等ができない。

実際記憶力に自信がないのが一番の理由だろうが、最近はリナがその事に怒ることもなく慣れた様に言葉を発するからだ。

前は記憶力なんとかしろと怒鳴り散らされていた気がする。実際本当に、慣れてしまったのかもしれない。

 

剣を探す旅という、特に急いでない目的のせいかのんびりとした雰囲気で街道を行く。

だからこそこんなある種どうでもいい話題になったのだが。

 

「……で、その足音はどこから近づいてくんの?」

「……え?」

オレの方を特に見るわけでもなく、前を向いたままやはり興味のなさそうな口調で、そう言う。

何気ない言葉。

「前から近づいてくるの?それとも後ろから?」

 

考えたことも、なかった。

言われて記憶を必死に辿る。

…………。

 

「いやそんな真面目に考えこまなくても」

その様子を見てぱたぱたと手を振ってリナが言う。

「………いや、そーいや前に近づいてきてた気がするなと思って。最近は」

「最近は?」

「前は後ろからだった気が、する」

 

とん、とん、とんと。

ゆっくりだけれど確かな足音。

後ろからだ。

けれど気がついたらその音は前にまわっていた。

近づく。

 

そう言うと、それってさ、とリナが眉を少しひそめながらこっちを見て言った。

「足音が階段の音みたいじゃない?普通はてくてくとかひたひたとかでしょ?」

「……そう言えばそうだな」

近づくのは前でも後ろでも下から、上って近づく音。

「階段って事は宿の廊下の音寝ながら無意識に聴いてるんじゃないの?だって他心当たりないでしょ」

「でも後ろから前に変わったのはなんなんだ?」

「寝る頭の向きが変わったとか」

そう言われてしまうと身も蓋もない。が、一番納得できる答えなのかもしれない。

 

「でも前から、に変わったのってなんとなくイメージはいいわよね」

「なんでだ?」

「逃げてる感じじゃなくてさ、受け入れてる感じがあるじゃない。前向きに」

そう言って彼女は前を向き直す。

その横顔は、けして出会った頃には見られなかった大人びた雰囲気の強い表情だったのに少し内心驚いた。

多分当時のリナも同じ様な台詞を言っただろうに、けれども。

「……何?どしたの?ガウリイ」

「あ。いや。なんでもない」

一瞬足を止めたのを怪訝そうに伺うリナにオレは首を横に振った。

 

 

その音はその後も少しずつ近づいてくる。

何度かやはり夢に見る。

 

 

「……泣いてるのか…」

「……まさか……」

 

知り合ったアリアを助けられなかったとき。

 

とん。

 

「ルゥゥゥゥクゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」

 

ミリーナを失ったあと。

ルークが……暴走したあと。

 

とん。とん。

 

 

その音の正体にオレが気づいたのは魔王を…倒した後だった。

 

「悪かったわね……泣いてるわよ」

 

堪えきれないように。

ぼろぼろと泣く彼女。

初めてオレの前で泣いた。

今まで絶対に見せなかった『弱さ』。

 

「開き直ったな」

 

気がついた。

あの足音は――――――。

あの足音の持ち主は――――。

 

 

 

―――目の前で泣く彼女のものだった。

段々成長していく彼女が、子供らしさから抜け出す足音。

オレに近づく。

前はどんなに歳をとったってオレにとっては子供だろうと背を向けていた。

だから後ろから近づいていた。

いつからか前に向きざるを得ない様な表情を彼女は見せて。

とても子供とは言いがたい姿に成長していって。

目が離せない。前よりも。

 

 

『逃げてる感じじゃなくてさ、受け入れてる感じがあるじゃない。前向きに』

 

 

 

傍に来た。

 

 

「いいさ。泣いても」

そう言って彼女を受け止める。

 

受け止められる。

 

「ばか……」

 

 

受け止めながら、穏やかな気分で今度は足音と一緒に歩こう、と思った。