Short Story(not SFC)-短い話-

answer as a reason



ドンッ。

 

あたしたちがとある町中を歩いていると10歳くらいの男の子がガウリイにぶつかってきた。

「うわっと」

ガウリイは驚いて少年を見て―――そのまま立ち去る彼を有無を言わさず後ろから捕まえた。

理由は簡単。あたしにもわかった。

 

「おい」

ガウリイに捕まえられたのに驚いた顔をする。

あたしはその横で少年の手にこっそりと握られているものを黙って奪い取った。

他でもない。ガウリイの財布である。

いくらガウリイの頭が紙より軽いとは言え、そうそうスリにやられるほど彼の勘の鋭さはあまくない。

 

「……っ」

「さて。どーゆーつもりかしら?言っておくけど子供だからって見逃さないわよ」

あの技術ははっきし言って昨日今日はじめたよーな感じじゃない。ある程度慣れたよーな雰囲気である。

この年でンな方法取得してるよーな子供を甘やかすつもりはさらさらない。

しかし彼は落ち込んだり反省するような表情を見せるどころか、反抗的な顔であたしたちをにらみつけてきた。

「なんだよ!このにーちゃん剣士だろ!剣士なんて悪人だろ?悪人から物取ったって別にいいじゃんか!」

あたしとガウリイは思わず顔を見合わせた。

また随分な偏見である。魔道士が悪く言われるのは今まで何度かあったけど。

 

「あのなあ」

困った様に髪をかきあげて、ガウリイが少年に言う。

「悪人から物取ったって別にいい……ってリナじゃあるまいしそんな人生投げてどーするんだよ?」

「そっちかい重視するのはっ!?」

すぱーん!

あたしはいつものよーにスリッパではたく。

そのやりとりに怯むことなく少年はあたし達を―――と言うよりガウリイをにらみつけたまま。

「……で、なんでただの剣士が悪人なのよ?」

あたしが訊くと少年は迷いもせず憎んだ様に口を開いた。

「剣士なんて、人を殺すことしかしないじゃんか!それで稼いでるんだろ!?」

 

 

 

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「ねえ」

あたしは椅子に腰掛けて、食堂から持ち出した香茶など飲みつつ、ベッドを椅子代わりにしてくつろいだままのガウリイに声をかけた。

その日の夜。

宿について、食事をした後ゆっくりまー明日の行き先とかいろいろと話をしようとガウリイの部屋に訪れたのだ。

 

「ん?」

「……昼間の少年のことだけど」

 

 

あの後母親が現れ、すいませんすいませんと謝罪などし、わずかながら賠償金を払ってきて示談になったのだった。

話を聞くとなんでも彼の父親が、ちょっと昔までこの辺で起きてた国の争いにまきこまれ、敵の剣士に斬られて亡くなったのだとか。

それを小さいながら聞いていた彼の頭には剣士は人を斬る仕事をする者、と言う先入観しかなくなってしまったらしい。

母親がなんとたしなめても剣士を憎むようになり、元々父親がいないせいで大して生活が豊かでないのも手伝って、町に訪れた剣士を中心にすりをするようになってしまったのだとか。

それで毎回被害者に賠償金払ってるのだと言うから悪循環もいーとこである。うまくしつけが出来てないと言うか何というか。

 

「あんた言ったでしょ?あの子に。向こうは理解してたかどーかわかんないけど」

 

あくまで、剣士は悪人だからいいんだ、とつっぱねる彼にガウリイは優しく語り掛けたのだ。

 

『剣は何かを傷つけるために持つやつもいるかもしれないけど何かを護るために持つやつも、いるんだぞ?』

 

あたしはその言葉を口に出して復唱する。

ガウリイが、ああ、と思い出した様に答えた。

「あれってさ、昔にうちの父ちゃんから言われたことからだったりする?」

「―――」

ガウリイが驚いたような顔をしてあたしを見る。

「あ。やっぱし。図星?」

「……どうしてだ?」

「…昔、似たような事、父ちゃんあたしにも言ってたから」

あたしは適当なことを言ってごまかす。

 

本当は知ってたからだ。

無理やり聞き出したこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつが剣を捨てようとしたところに、俺が声をかけたんだよ」

 

ゼフィーリアにガウリイと帰った時の事。

ガウリイとうちの父ちゃんが前からの顔見知りであることを知って。

あたしは、ガウリイがたまたま姉ちゃんとかと話してて傍にいない時、父ちゃんにどーゆー知り合い方をしたのか訊いたのだ。

最初は口を閉ざしたままだったのだけれど、あたしがあまりに疑問のためしつこく訊いたせいか父ちゃんはぽつり、とそう口を開いた。

 

「……剣?」

「ああ。お前も知ってるんじゃないか?前持ってた『光の剣』だ」

「……」

 

あまりに意外な言葉に、あたしは思わず黙り込んだ。

家宝、だと言っていた。伝説の剣。

あたしにも売りたがらない程大事にしてたもの。

それを―――捨てようとしてた?昔?

 

あたしが眉をひそめて黙っているのを見て、父ちゃんは口元だけ笑みを見せて、言葉を続けた。

「……ま、俺があれこれ言ったらやめてたけどよ」

「―――あれこれ?」

 

 

―――その答えは、父ちゃんは返さなかった。

あたし自身もなんとなく、それ以上は追及しなかった。ガウリイにも、訊こうとはしなかった。

だけど、今日のことで大体想像がついて、ふと訊いてみたくなったのだ。

……もし、その仮説が正しいのなら、ともうひとつ立てた仮説の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたさ、あたしと出会ったときしょっぱなから――むやみやたら『保護者』したがったじゃない?」

香茶のカップをテーブルに置いて、あたしは言葉を続ける。

 

―――あたしが盗賊に囲まれてるのを助けて―――そして。

当時の目的地だった、アトラスシティまで送ると言った。

こっちは頼んでもいなかったのに。

 

 

「あれってさ、『あたし』を理由にしたかったから?

あんたが―――『剣を持っている理由』に」

 

彼のほうは見ないで―――自分でもびっくりするくらい、さらり、とそのもうひとつの仮説を言った。

 

自分は誰かを傷つけるために剣を持ってるんじゃない。

誰かを護る為に剣を持ってる。

その『誰か』を適当に見つけて――そう『理由』を作って自分が剣を持つのを正当化したかっただけだった?

 

言った後で―――後悔はしないものの彼の方を見るのがどこか怖かった。

もし万が一肯定されても、あの頃のことだからと割り切る自信はあるのに。

『今』は違うと―――言える自信もあるのに。

 

「リナ」

 

びくり。

真剣みを帯びた、声。

おそるおそる顔を見れば少し怒ったような表情。それでいてどこか哀しげな―――。

黙ったまま傍に来て手をあたしに伸ばしたとき、叱られるんじゃないかと少しだけ思って思わず目を伏せる。

けれど彼の手は優しくあたしの肩に、触れる。

なんとなくそれが悔しくて、あたしはそうするガウリイを強気ににらみつけた。

そっちが何も言わないならこのまま黙ってなんかやらない。

「……けどあんたがもし望んでたとしても、『理由』になんかあたしなってやるつもりないから。今も昔も」

そうあたしが言うと彼の顔は何故か苦笑したものに変わって、肩に置いた手は、あたしの髪を撫でた。

 

 

「望んでるわけないだろ?」

強いけれど穏やかな口調で。

「―――理由作るために、お前さんをだしに使うために―――旅しようと思ったこと、ないぞ?」

はっきりと。

戸惑うことも迷うこともなく言葉をつむぐ。

「お前さんは『理由』じゃなくて――『結果』だろ?オレが剣を持ってたから―――」

そこまで言うと、黙ってあたしを優しく見つめる。

 

……こーゆー時のこいつって本当、卑怯だと思う。最後まできっちり言葉では言わないのに。

言ってくれないのに。それでもその端々の言葉だけで欲しい言葉の代わりにする。

ああもう。

 

 

「…『結果』でも嫌か?」

「……もーいーわよ。どーでも。変なこと言ったあたしが悪かったわ」

少し疲れたため息をもらつつあたしは言って、顔をガウリイからなんとなくそむけた。

 

どっちにしたってガウリイに護られてる事は変わらないのだ。『理由』でも『結果』でも、どんな形でも。

―――知ってる。悔しいけど。

 

 

 

―――顔を彼のほうに向き直せば、ゆっくりとガウリイの顔が目の前に近づいた。