20 Topic for Slayers secondary creations
-スレイヤーズ2次創作のための20のお題-
04.あの日
大きな樹に手をついて。あたしは息を切らした。
走って森の中を突っ切っているのである。辺りをうかがいながら。
けどいつまでも走ってられるわけでもなく、スタミナが切れて。
「……っ、まだ何人かいるかっ……」
感じる気配に、あたしはげんなりとした。
おとなしくこの森の前の町で何日か過ごしていればよかった、と思う。
この森がそんなに大きいとは思ってなかったし、やっかいごとからはなるたけ避ければ問題なし、とたかをくくってた。
しかしそんなときでも盗賊だのごろつきというのは現れるもので。
森の中を突っ切ろうとするあたしに10何人もが囲ってきたのである。
――もちろんいつものあたしなら術ひとつでこんなやつら簡単にぶっ飛ばしてる。
しかし。
「……ったく…っ……女ってのはこれだから……っ」
いつもより若干重い体と走りまくった疲労があたしを襲う。
月一度勝手にやってくる。魔法が使えない日。
こんな状況になったのは思ったより早くその日が今回訪れた―――というのもある。
ああもう。
この時ばかりは女として生まれたことをちょっと悔む。
将来子供なんて生むかどーかもわかんないものになんでこうこんな歳から苦しまなきゃならないのか。
あたしは一般よりは軽いほうだけれど、それでも魔法が使えないことには違いないわけで。
まだ森は抜けられる気配を見せない。
振り切れなかった男どもの気配は……姿は見えないものの、1、2…3人。
腰のショート・ソードをあたしはひき抜く。
「……こんな時っ…ナーガでもいてくれりゃあ話は別なんだけど……」
と、そこまで呟いて、すぐに自分に冷静にツッコミをいれる。
待て。ナーガの助け求めるようになったらおしまいだぞ。あたし。
……まあ、あんな出たり出なかったりの生物がこーゆー時いても、どーせ無様だとかいって笑って役に立たないだろ―けど……。
というか…ふと思うけど…ナーガにもこんな日がちゃんとあるんだろーか……?
なんだかイヤな考えが頭をよぎりつつ、あたしは辺りをにらみつける。
こーゆー時は剣しか使えるものがない。
「いーかげんっ……かよわい女の子追っかけるのは止めにしたらどうっ!?」
やっとの思いで振り絞った声に、木の影に隠れていた男どもは姿を現した。
1…2…3。
やっぱし3人。
時間がたてば増えてくるだろうけど、今ならなんとか突破できるかもしれない。
「へっへっへ……意気のいいおじょうちゃんだなあ……」
「素直に有り金渡していけばこんなおいかけっこもしなくて済んだのによ……」
「……誰がっ」
絶対魔力戻ったらこいつらの盗賊団つぶす。絶対つぶしに行ってやる。
このあたしがこんなやつらに追い詰められてるなんてっ!
天才美少女魔道士としてのプライドが許さないっ!
「覚悟しろっ!」
月並みな台詞を吐いた男が剣をあたしに振りかざした。
「リナ、剣もしっかり使えるようにしとけ」
――――旅に出る前、父ちゃんはあたしに言った。
よくあたしが嫌がっても剣の練習をさせたものだ。
「別にンなに使えなくたっていーよ。あたし、攻撃呪文大分覚えたし」
魔法をどんどん覚えていって、それが楽しくて、魔法に夢中になってた頃。まだ子供の頃。
だからそれ以外に目が向かなくて。
「魔法だけじゃやってけねえだろ?」
「………どーゆー意味?」
あたしが聞くと、さあな、と父ちゃんは長い黒髪を掻き分ける。
「長距離ならともかく接近戦とかじゃ剣のが有利だ。魔法だけじゃなく剣も使えてこそ天才だぞ」
「……接近戦?」
「まあ、まだお前チビだから、旅に出るとか戦いとか将来あるとは限らんが」
自分の剣を見て言葉を続ける父ちゃん。
「俺の子ならルナほどとは言わねえから、使えるようになっとけ」
そう言った父ちゃんの目はどこか寂しそうだった。
あたしは―――元剣士としては自分の娘が魔法に夢中で剣使えないのは切ない、と言う意味なのかと思ってた。
けど、もしかしたら違うのかもしれない。
男親として――――娘が成長していく事を想像して、なのかもしれない。
魔法だけでは、将来『女である以上、使えない日』が生じることを知っていて。
その間でも補える剣をあたしに教えたがった。
もちろんンなこと男親に確かめて訊けはしないし聞きたくないけど。
理由や意図はどうであれ、その忠告をあたしはなんとなく守って。
「ぐうっ……」
なんとか倒した最後の一人が地面に転がる。
あたしは魔法を覚える傍ら、その辺の三流剣士を簡単に負かす程度には剣の腕を磨いた。
もちろん父ちゃんの指導により。
おかげで―――こうして切りぬけていけてる。
はあっ、とあたしは一息大きくつく。
ぐずぐずしてると他の連中が来る。
いくらあたしの剣の腕で倒せる程度でもいちいち相手してられない。つーかもぉ疲れた。
「森ぬけたら絶対いい宿で休んでやるっ」
決意を口にしてあたしはまた走った。
ショート・ソードを腰の鞘に収めて。